マリリンモンローとダニ

マリリンモンローとダニ
よくある皮膚の病気(13)
疥癬(かいせん)というヒトからヒトに感染するダニがいます。戦後の混乱期の皮膚科外来には疥癬の患者さんがたくさんいたようですが、昭和30年代にはほとんど見られなくなりました。ところが、昭和40年代に東南アジアから持ち込み、性感染症として再び流行り始めました。その後、病院や介護施設で大発生を繰りかえすようになり、社会問題化した疾患です。
さて、ずいぶん昔に疥癬についてアメリカの医学生がよく使用するというアトラス(写真の多い教科書)を見ていたところ、「きちんと診断されずに長く経過した疥癬のことを 巷ではthe 7-year itch と言う」なんて、出ていました。そうなんです。気をつけていないと誤診する可能性のある皮膚疾患です。研修医の頃、看護師さんに強く依頼されて、しぶしぶ検査したらダニがいた、なんてことが私にもありました。
うーん、どこかで聞いたような文句だなぁ、と思いましたが、そのままにしてしまいました。ある時、マリリン・モンローが地下から吹き上げる風に舞うスカートを抑える、あの有名なシーンのポスターを何気なく見たときです。そこには「The seven year itch]と書いてあるではないですか。そう、邦題「7年目の浮気」です。1955年の作品です。私は古い映画も好きなのですが、マリリン・モンローの出演作は食わず嫌いなのか1本も見ていなかったのです。
itchは、かゆみ、うずうずする感じ、などと訳されますが、疥癬という意味もあります。かゆみは皮膚科の重要な症状ですので、私もカルテに良く使う言葉です。The seven year itchとは、結婚7年目ごろになると出るといわれる満たされない気持ち、とLongmanには出ていました。7年目の浮気・・・なかなかの訳ですね。
疥癬のことをthe 7-year itchと書いてあった教科書は、ハーバード大学皮膚科の教授であったFitzpatrick先生の編集です(非常に高名な先生でしたが、亡くなられました。)。Itchは疥癬、とは辞書に出ていますが、the 7-year という修飾語は見つかりません。もしかしたら、Fitzpatrick先生の造語かもしれません。この部分を書いていた(あるいは編集で読んでいた)先生は、ククッと、笑ったのでしょうか。「この意味わかるかなぁ」・・・なんて。

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