パイロットが飲める抗ヒスタミン剤

抗ヒスタミン剤は花粉症(アレルギー性鼻炎や結膜炎)や蕁麻疹(じんましん)などに使われる薬です。副作用が少なく、長く飲める薬ですが、眠気やだるさが副作用として問題となることがあります。したがって、抗ヒスタミン剤を患者さんに処方する際は車の運転などに注意するようにお話しします。個人差も大きいようで、普通の薬局で買える総合感冒薬(第1世代の古いタイプの抗ヒスタミン剤が入っていることが多い)を飲むとだるさを感じる方(もちろん風邪症状本体によるものもあるかもしれませんが)は眠気の少ないお薬を希望するといいと思います。

今回は眠気が絶対に出てはならないパイロットが飲める抗ヒスタミン剤について。国土交通省から出ている「航空機乗組員の使用する医薬品の取扱いに関する指針」の改訂版(平成30年6月)では、「鎮静作用の無い抗ヒスタミン薬(第二世代の抗ヒスタミン薬に限る)過去の使用経験により、眠気・集中力低下等の副作用が無いことが指定医又は乗員健康管理医によって確認されなければならない。ただし、フェキソフェナジン、ロラタジン、デスロラタジン及びビラスチン以外の内服薬を使用後は少なくとも通常投与間隔の2倍の時間(1日3回の服用が指示される場合は16時間、1日2回の場合は24時間、1日1回の場合は48時間)は航空業務に従事してはならない。」としています。抗ヒスタミン剤は通常長い期間飲むことが多いので、実質上パイロットが飲める抗ヒスタミン剤はフェキソフェナジン(先発品商品名:アレグラ)、ロラタジン(同:クラリチン)、デスロラタジン(同:デザレックス)、ビラスチン(同:ビラノア)の4つということになります。なお、これはパイロットに限った話題です。抗ヒスタミン剤に対する眠気やだるさには個人差があるので、上記4剤以外の抗ヒスタミン剤をとくに副作用なく普通に飲めている方はたくさんいます。もちろん、どの薬も飲み始めたときの副作用の出方のチェックが大切です(為念)。

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近況写真(本文とは関係ありません)

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息子がマスを釣ってきたので、

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キクラゲサイン

これで鑑別はOK! ダーモスコピー診断アトラスー似たもの同士の鑑別と限界ー(MB Derma(デルマ)) ムック – 2019/4/11

ダーモスコピーとは皮膚科で使用する拡大鏡で、偏光レンズが入ったルーペです(いろいろな機種があります)。ホクロの診断などに用います。保険も通っています。私がダーモスコピーによる診断法の存在を知ったのは30年ほど前のことです。私のお師匠さんがある論文を紹介してくれたのが始まりだったような記憶があります。皮膚科医は100年ぐらい虫眼鏡で皮膚を観察してきたので、偏光レンズを加えたところで大きな変化(新しい所見の発見)が起きるとは最初は思いませんでした。でも、偏光をかけると見たことのない模様がたくさん見えたのです。皮膚科学にとっては久しぶりに、そして一度に、たくさんの形態学的所見が目の前に現れたのです。見えたものに特徴があれば、適切な名前を付けたくなります。身の回りで近似している物の名称を使うと共通認識が得られやすくなります。新しい名前を考えるのは楽しい作業です。

基底細胞がん(きていさいぼうがん)という皮膚がんがあります。そのがんの端に薄茶色の帯が紅葉の葉やオーロラのように取り巻く所見が見えることがあります。昆布のようでもあります。もっと言うとまさにキクラゲだと思ったわけです。キクラゲサインだ、と提案しましたが、軽く却下されました。形態学上の名称には世界中の医師が共通して思い浮かべられる名称が必要なのです。現在はleaf-like structuresという名称で呼ばれています。

主にヨーロッパと日本の少数の施設で始められたこの検査によって発見?された多くの所見について、それぞれの施設でいろいろな名称がつけられて解析されていました。勝手勝手に付けられた名前を統一するため、2000年代初頭にローマで会議が行われました。それぞれが思い入れのある用語を差出し、相手の提案する名前に譲歩し、そして日本で名づけられた名称のいくつかも国際的に認められました。その後、さらに所見の意義の解析や名称の統一が進みました。インターネットの進化がそれを可能にしたのではないかと個人的には感じています。2000年ごろには(記憶があいまいで、間違っているかもしれませんが)送られてきたA4版カラ―画像をモニターに表示するのに30分以上かかったような記憶があります。それでも遠く離れた国間で、ほぼリアルタイムに同じ画像を見ながら議論できるということは1990年代には困難でした。

個人的には、自分が最もしっくりくる近似物を脳内に格納していくことが形態学的診断学では有効だと思っているので、”キクラゲサイン”は(私の頭に中には)まだ生き残っています。今でもこの所見が見えると「やっぱりキクラゲだよなぁ」と思うわけです。ダーモスコピーの書籍を編集させてもらいました。4/11発売予定です。

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