キクラゲサイン

これで鑑別はOK! ダーモスコピー診断アトラスー似たもの同士の鑑別と限界ー(MB Derma(デルマ)) ムック – 2019/4/11

ダーモスコピーとは皮膚科で使用する拡大鏡で、偏光レンズが入ったルーペです(いろいろな機種があります)。ホクロの診断などに用います。保険も通っています。私がダーモスコピーによる診断法の存在を知ったのは30年ほど前のことです。私のお師匠さんがある論文を紹介してくれたのが始まりだったような記憶があります。皮膚科医は100年ぐらい虫眼鏡で皮膚を観察してきたので、偏光レンズを加えたところで大きな変化(新しい所見の発見)が起きるとは最初は思いませんでした。でも、偏光をかけると見たことのない模様がたくさん見えたのです。皮膚科学にとっては久しぶりに、そして一度に、たくさんの形態学的所見が目の前に現れたのです。見えたものに特徴があれば、適切な名前を付けたくなります。身の回りで近似している物の名称を使うと共通認識が得られやすくなります。新しい名前を考えるのは楽しい作業です。

基底細胞がん(きていさいぼうがん)という皮膚がんがあります。そのがんの端に薄茶色の帯が紅葉の葉やオーロラのように取り巻く所見が見えることがあります。昆布のようでもあります。もっと言うとまさにキクラゲだと思ったわけです。キクラゲサインだ、と提案しましたが、軽く却下されました。形態学上の名称には世界中の医師が共通して思い浮かべられる名称が必要なのです。現在はleaf-like structuresという名称で呼ばれています。

主にヨーロッパと日本の少数の施設で始められたこの検査によって発見?された多くの所見について、それぞれの施設でいろいろな名称がつけられて解析されていました。勝手勝手に付けられた名前を統一するため、2000年代初頭にローマで会議が行われました。それぞれが思い入れのある用語を差出し、相手の提案する名前に譲歩し、そして日本で名づけられた名称のいくつかも国際的に認められました。その後、さらに所見の意義の解析や名称の統一が進みました。インターネットの進化がそれを可能にしたのではないかと個人的には感じています。2000年ごろには(記憶があいまいで、間違っているかもしれませんが)送られてきたA4版カラ―画像をモニターに表示するのに30分以上かかったような記憶があります。それでも遠く離れた国間で、ほぼリアルタイムに同じ画像を見ながら議論できるということは1990年代には困難でした。

個人的には、自分が最もしっくりくる近似物を脳内に格納していくことが形態学的診断学では有効だと思っているので、”キクラゲサイン”は(私の頭に中には)まだ生き残っています。今でもこの所見が見えると「やっぱりキクラゲだよなぁ」と思うわけです。ダーモスコピーの書籍を編集させてもらいました。4/11発売予定です。