患者さんとの距離 皮膚科医にできること

昨日は医学部の学生さん向けに皮膚科の説明会を開きました。ちょっとごちそうを用意して(食べ物で釣る気はないですが精いっぱいの歓待の気持ちを示すためです)、何名かの学生さんを迎えました。少しでも皮膚科に興味を持ってくれて、もしかして皮膚科医になってくれたらいいなぁ、という気持ちで毎年開いています。全国の大学病院のほとんどすべての科で同じような企画が行われています。

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近況写真(本文とは関係ありません)

本文から脱線しますが、写真はミラノの続きです。借りたアパートの中庭にいた人懐っこい猫です。頬から横方向に伸びる毛並みが貫録を増しています。
ダヴィンチのブドウ畑です。ブドウの木はまだ若いのにたくさんの青い実を着けていました。土壌のDNA解析で500年前に栽培されていたブドウの種類を突き止めて復活させたそうです(帰ってきてから調べるな!、と、今自分に言いました)。このブドウの木もきっと時をきざんで貫録を付けていくのでしょう。
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本文に戻ります。

 

一昨日、学生さんに説明するスライドを作っていて、皮膚科医(の私)がすぐにできるけれど、忘れやすいある行為を思い出しました。臨床皮膚科. 2010年04月号 (増刊号) に書いた短い雑文を(少し改訂して)以下に書きます。ダーモスコピーという偏光レンズがついたルーペで皮膚を観察する検査があります。とても有効な検査で、ホクロかメラノーマか迷って切除して確認すること(生検)が、この検査を使う前の時代と後では(個人的には)1/10になった感じがします。つまり90%の方は良性と判断され、痛い検査をしなくて済むようになった感じがするのです。

「ダーモスコピー」臨床皮膚科. 2010年04月号 (増刊号)

ダーモスコピーの学会でよいことを聞きました。ダーモスコピー(液晶ライトがついた偏光拡大鏡)を患者さんの皮膚に当てて覗き込むという行為によって、患者さんとの距離が縮まるというのです。物理的にはあたりまえのことですが、心理的にという意味です。

ダーモスコピー
ダーモスコピーの学会でよいことを聞きました。ダーモスコピー(液晶ライトがついた偏光拡大鏡)を患者さんの皮膚に当てて覗き込むという行為によって、患者さんとの距離が縮まるというのです。物理的にはあたりまえのことですが、心理的にという意味です。
皮膚科の臨床実習に来たばかりの学生さんをみているとはるか昔の自分を思い出します。病歴などはじっくり聞くのですが、皮疹については1m以上遠くからチラッとみて(たぶん3秒ぐらい)、「ありがとうございました・・・」と終了です。触りもしません。最初はみんなそうです。通常の対人関係には許容できる距離間というものがありますし、それを越えて近づくことには抵抗があります。また、皮膚病変をじろじろ見たり、触ることが患者さんに対して失礼になると思っている場合もあります。
JAMA(アメリカ医師会誌)のコラム「A Piece of My Mind」の傑作選「医者が心をひらくとき」(ロクサーヌ K. ヤング編、李 啓充訳、医学書院)に、重度の若い乾癬患者とそれを治療した皮膚科医の話が出てきます(題名:粉ふき男)。専門的な治療によって、患者さんは就職、恋愛、結婚という社会生活を営めるようになります。でも、患者さんが一番うれしかったのは、患者さんの外観を嫌って逃げ出さない主治医の皮膚科医だったと述べたそうです。他にも患者さんに近づいて、そして(もちろん許可は得ますが)皮膚を触ることの大切さを説くものはたくさんあります。
裸眼(機械を使わずに見る)でも患者さんに近づき皮膚の状態をきちんと見ることは可能ですし、これは皮膚科の診察の基本です。でも、ダーモスコピーを使うことによって患者に近づくことが(心理的に)さらに容易になった感じがします。近距離からダーモスコピーで見て、裸眼にもどって見て、そしてよく触る、という3点セットを交互に行えるのがいいのです。病気は腫瘍性病変に限りません。
実際に日々の診療でダーモスコピーを使用しはじめてから、患者さんの満足度が高くなった印象を受けます。ダーモスコピーを使う前は、ホクロを一瞬みて「良性ですね」と言うと、「なんで、そんなにすぐに、簡単ににわかるんですか?」とよく言われました。(あの、一応、皮膚を見るプロなんで・・・などと、なかなか言えません)。

 

 

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