アトピー性皮膚炎と汗

長い梅雨が開けて、急に気温が上がりました。連日暑い日が続いています。今年の北海道は夏が来ないまま終わるのではないだろうか、などと少し心配していましたが、そんなことはありませんでした。今回は汗の研究お第一人者である長崎大学の室田浩之先生の講演記事より。

室田先生によれば、成人のアトピー性皮膚炎患者さんは、分泌する汗の量が少なく、汗を分泌する速度が遅い、そうです。汗が出にくい理由は、1)汗の出るところが角質で埋まっているため、2)アトピー性皮膚炎の患者さんのエクリン汗腺は導管部(分泌された汗を皮膚の表面まで運ぶ管、ホース)のバリア機能の低下によって汗が皮膚内に漏れている、ことによるそうです。

汗には塩分(塩化ナトリウム、NaCl)などが含まれているので、汗をかくとピリピリする場合があるのはこの漏れた塩によって起きているのではないか、と仮説を述べておられます。

汗はアトピー性皮膚炎にはよくないことになっています。でも汗の成分の中には尿素などの保湿成分やダニ抗原などを中和する成分が含まれています。正常人の皮膚とアトピー性皮膚炎の方の皮膚では同じ汗でもおよぼす影響がことなるということでしょうか。

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急に汗が出なくなった

友禅と発汗テスト

万葉集と友禅と発汗テスト

局所多汗と塩化アルミニウム水溶液

皮膚がピリピリする

近況写真(本文とは関係ありません)

夏祭りです。短い夏を(必死に?)楽しもうとする北海道の雰囲気が好きです。

天気にめぐまれ、3年目にしてやっと神威岬突端に来れました。巨大生物がうごめくような迫力です。

ステゴザウルスの背中のようです ゴジラの出現場所としてよいのではないかと思いました

 

うそ寝作戦 トコジラミ

Visual Dermatology(学研メディカル秀潤社)という皮膚科の雑誌の今月号で夏秋優先生(兵庫医大)がトコジラミ(南京虫)について解説しておられました。

トコジラミの被害が増えているようです。夏秋先生は虫に関わる皮膚障害の第一人者で、名著「Dr.夏秋の臨床図鑑 虫と皮膚炎」(学研メディカル秀潤社)は常にアマゾンのランキングの上位に位置しています。昆虫図鑑として楽しめるアトラスで、皮膚科医だけでなく虫が好きな方にもおすすめです。

今回は夏秋先生の論文から、トコジラミを疑うポイントと虫を見つける方法”うそ寝作戦”について。

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週末は余市の海に出かけました。今年初カヤックです。
全国的に梅雨明けですね。北海道も今年は6月からずっと天気が悪く、やっと夏が来た感じがします。

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患者さんとの距離 皮膚科医にできること

昨日は医学部の学生さん向けに皮膚科の説明会を開きました。ちょっとごちそうを用意して(食べ物で釣る気はないですが精いっぱいの歓待の気持ちを示すためです)、何名かの学生さんを迎えました。少しでも皮膚科に興味を持ってくれて、もしかして皮膚科医になってくれたらいいなぁ、という気持ちで毎年開いています。全国の大学病院のほとんどすべての科で同じような企画が行われています。

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近況写真(本文とは関係ありません)

本文から脱線しますが、写真はミラノの続きです。借りたアパートの中庭にいた人懐っこい猫です。頬から横方向に伸びる毛並みが貫録を増しています。
ダヴィンチのブドウ畑です。ブドウの木はまだ若いのにたくさんの青い実を着けていました。土壌のDNA解析で500年前に栽培されていたブドウの種類を突き止めて復活させたそうです(帰ってきてから調べるな!、と、今自分に言いました)。このブドウの木もきっと時をきざんで貫録を付けていくのでしょう。
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本文に戻ります。

 

一昨日、学生さんに説明するスライドを作っていて、皮膚科医(の私)がすぐにできるけれど、忘れやすいある行為を思い出しました。臨床皮膚科. 2010年04月号 (増刊号) に書いた短い雑文を(少し改訂して)以下に書きます。ダーモスコピーという偏光レンズがついたルーペで皮膚を観察する検査があります。とても有効な検査で、ホクロかメラノーマか迷って切除して確認すること(生検)が、この検査を使う前の時代と後では(個人的には)1/10になった感じがします。つまり90%の方は良性と判断され、痛い検査をしなくて済むようになった感じがするのです。

「ダーモスコピー」臨床皮膚科. 2010年04月号 (増刊号)

ダーモスコピーの学会でよいことを聞きました。ダーモスコピー(液晶ライトがついた偏光拡大鏡)を患者さんの皮膚に当てて覗き込むという行為によって、患者さんとの距離が縮まるというのです。物理的にはあたりまえのことですが、心理的にという意味です。

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世界皮膚科学会2019 ミラノ

4年に一度開催される学会(研究会)です。前回の2015年はバンクーバー①でした。ちょうど女子サッカーのワールドカップが開催されていました。時間の経つのは早いものです。その前はソウル2011、ブエノスアイレス2007、パリ2002、シドニー1997、ニューヨーク1992だったかと思います。ブエノスアイレスからこのブログに登場しています。

さて、今回の学会では、前回のバンクーバーではガラガラだった皮膚がんの薬物療法のセッションが満席でした(隣室のニキビ関連のセッションは入場制限がかかっていましたが)。ヨーロッパにはドイツ語圏があって、そこでは日本と同じように(もともとドイツからスタイルを導入したのですから当たり前ですが)皮膚科医が診断から手術、薬物療法に関わっているからでしょうか。また、皮膚がんのセッションで日本の先生方も座長やスピーカーを務められていて、すばらしいと思いました。


なんとなく予約したアパートには立派な中庭と裏庭と小さなブドウ畑がありました。入場料を払って観光客が見学のために入って来ます。ダビンチが王様からもらったブドウ園(復元)だそうです。生誕500周年だそうで街中の美術館にレオナルド・ダ・ヴィンチの垂れ幕がありました。

母斑(ぼはん) 母に責任はない

母斑(ぼはん)は一部の皮膚の生まれつきの異常・・・あざ、のようなもの・・・の意味です(医学的な定義にはいろいろあって、もっと複雑ですが、簡単に言えば)。

病名としては、

色素性母斑(黒:ほくろ)、扁平母斑(茶色:へんぺいぼはん:コーヒー牛乳色のシミ)、脂腺母斑(黄色:しせんぼはん:赤ちゃんの頭部にできる生まれつきの部分的な脱毛としてみられる)、太田母斑(青:おおたぼはん)・・・・などがあります

赤ちゃんに起きた何らかの異常を母親のせいにする・・そんな時代がありました。“母斑”という言葉は明治に西欧の医学を輸入して、和訳して長い間使われてきた言葉であり、皮膚科医には使い慣れた用語です。とくに“母親からの遺伝”という意味で使ってる皮膚科医はまずいないと思います(個人の印象です)。だから、病名に“母”という文字が入っているのはよくないのではないか・・・という意見は昔からありました。

これらのことを歴史的に詳細に検証した素晴らしい論文があります。

村田洋三、「母斑」という用語について、皮膚の科学2018年6月号

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春と夏がいっぺんにやってきた

鹿だったようです。円山の緑が美しいです。

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パイロットが飲める抗ヒスタミン剤

抗ヒスタミン剤は花粉症(アレルギー性鼻炎や結膜炎)や蕁麻疹(じんましん)などに使われる薬です。副作用が少なく、長く飲める薬ですが、眠気やだるさが副作用として問題となることがあります。したがって、抗ヒスタミン剤を患者さんに処方する際は車の運転などに注意するようにお話しします。個人差も大きいようで、普通の薬局で買える総合感冒薬(第1世代の古いタイプの抗ヒスタミン剤が入っていることが多い)を飲むとだるさを感じる方(もちろん風邪症状本体によるものもあるかもしれませんが)は眠気の少ないお薬を希望するといいと思います。

今回は眠気が絶対に出てはならないパイロットが飲める抗ヒスタミン剤について。国土交通省から出ている「航空機乗組員の使用する医薬品の取扱いに関する指針」の改訂版(平成30年6月)では、「鎮静作用の無い抗ヒスタミン薬(第二世代の抗ヒスタミン薬に限る)過去の使用経験により、眠気・集中力低下等の副作用が無いことが指定医又は乗員健康管理医によって確認されなければならない。ただし、フェキソフェナジン、ロラタジン、デスロラタジン及びビラスチン以外の内服薬を使用後は少なくとも通常投与間隔の2倍の時間(1日3回の服用が指示される場合は16時間、1日2回の場合は24時間、1日1回の場合は48時間)は航空業務に従事してはならない。」としています。抗ヒスタミン剤は通常長い期間飲むことが多いので、実質上パイロットが飲める抗ヒスタミン剤はフェキソフェナジン(先発品商品名:アレグラ)、ロラタジン(同:クラリチン)、デスロラタジン(同:デザレックス)、ビラスチン(同:ビラノア)の4つということになります。なお、これはパイロットに限った話題です。抗ヒスタミン剤に対する眠気やだるさには個人差があるので、上記4剤以外の抗ヒスタミン剤をとくに副作用なく普通に飲めている方はたくさんいます。もちろん、どの薬も飲み始めたときの副作用の出方のチェックが大切です(為念)。

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子供さんが飲める抗ヒスタミン剤

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美ヶ原高原は霧氷に包まれていました

息子がマスを釣ってきたので、

中型と小型は蒸し、大きいやつは燻製にしました

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キクラゲサイン

これで鑑別はOK! ダーモスコピー診断アトラスー似たもの同士の鑑別と限界ー(MB Derma(デルマ)) ムック – 2019/4/11

ダーモスコピーとは皮膚科で使用する拡大鏡で、偏光レンズが入ったルーペです(いろいろな機種があります)。ホクロの診断などに用います。保険も通っています。私がダーモスコピーによる診断法の存在を知ったのは30年ほど前のことです。私のお師匠さんがある論文を紹介してくれたのが始まりだったような記憶があります。皮膚科医は100年ぐらい虫眼鏡で皮膚を観察してきたので、偏光レンズを加えたところで大きな変化(新しい所見の発見)が起きるとは最初は思いませんでした。でも、偏光をかけると見たことのない模様がたくさん見えたのです。皮膚科学にとっては久しぶりに、そして一度に、たくさんの形態学的所見が目の前に現れたのです。見えたものに特徴があれば、適切な名前を付けたくなります。身の回りで近似している物の名称を使うと共通認識が得られやすくなります。新しい名前を考えるのは楽しい作業です。

基底細胞がん(きていさいぼうがん)という皮膚がんがあります。そのがんの端に薄茶色の帯が紅葉の葉やオーロラのように取り巻く所見が見えることがあります。昆布のようでもあります。もっと言うとまさにキクラゲだと思ったわけです。キクラゲサインだ、と提案しましたが、軽く却下されました。形態学上の名称には世界中の医師が共通して思い浮かべられる名称が必要なのです。現在はleaf-like structuresという名称で呼ばれています。

主にヨーロッパと日本の少数の施設で始められたこの検査によって発見?された多くの所見について、それぞれの施設でいろいろな名称がつけられて解析されていました。勝手勝手に付けられた名前を統一するため、2000年代初頭にローマで会議が行われました。それぞれが思い入れのある用語を差出し、相手の提案する名前に譲歩し、そして日本で名づけられた名称のいくつかも国際的に認められました。その後、さらに所見の意義の解析や名称の統一が進みました。インターネットの進化がそれを可能にしたのではないかと個人的には感じています。2000年ごろには(記憶があいまいで、間違っているかもしれませんが)送られてきたA4版カラ―画像をモニターに表示するのに30分以上かかったような記憶があります。それでも遠く離れた国間で、ほぼリアルタイムに同じ画像を見ながら議論できるということは1990年代には困難でした。

個人的には、自分が最もしっくりくる近似物を脳内に格納していくことが形態学的診断学では有効だと思っているので、”キクラゲサイン”は(私の頭に中には)まだ生き残っています。今でもこの所見が見えると「やっぱりキクラゲだよなぁ」と思うわけです。ダーモスコピーの書籍を編集させてもらいました。4/11発売予定です。

爪水虫(爪白癬)の治療 2019年春

爪の水虫(爪白癬、つめはくせん)はなかなか治しにくいタイプの水虫です。

長い間、爪白癬はイトラコナゾールやテルビナフィンの内服で治療してきましたが、この数年の間にしばらくぶりに新しい薬が出てきました。1つは塗り薬(外用薬)のトリアゾール系薬エフィナコナゾール(商品名:クレナフィン)とルリコナゾールの高濃度製剤(商品名:ルコナック)です。もう一つは飲み薬(内服薬)のホスラブコナゾール L-リシンエタノール付加物(商品名:ネイリン)です。関連の講演会を何回か聞く機会があったので2019年3月31日時点の状況をまとめてみました。何回かの講演内容を参考にしていますが、この記事に間違いがあれば私に責任があります。

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生命は海に生まれ、陸に上がった だから舌癌は白くふやける

口の中のただれ(潰瘍:かいよう)のために皮膚科を受診する方は少なくありません。舌癌は表面が白くふやけていたり(白斑症はくはんしょう)、赤くただれたように見えます。白くふやけたり、赤くただれても癌とは限りません。癌以外にたくさんの病気があります。でも30年以上皮膚科をやっていて、舌癌を疑って歯科口腔外科に紹介した患者さんは2‐3例しかありません。今回はなぜ口の中のがんは白くふやけるのか?です。

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もう1‐2回いたぶられるだろうけど、間違いなく、春の予感がしてきました。東京から出張して来た方にはわかんないだろうなぁ。気温が+になったんだ。

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口内炎が治らない 皮膚科でも対応できます

比較的大きな病院の外来の入り口には、「どの科にかかったらよいか?」ということを案内する窓口が用意されています。看護師長レベルの方が日替わりで対応していることが多いと思います。どの科にかかるのがベストかを決めなければいけないので総合診療科的な診断能力とその病院にある各科の得意分野などを把握している必要があります。重要な役割です。

口内炎は症状から大きく2つに分けると、1㎝以下の丸く白く深い口内炎(アフタ性口内炎)とそれ以上の大きさの(形が丸くない)ただれに分けて考えるといいと思います。前者はけっこうよくあって、1-2週で治ります。治ってしまうようなら問題ありません。医学生に「アフタ性口内炎と言えば?」と聞くと「ベーチェット病です」とすぐ答えます。・・・がベーチェット病は稀です。もっと注意しなければいけない口内炎は後者です。口蓋(こうがい:口の中の天井の部分)、頬の粘膜、歯肉や舌がただれてなかなか治らない。まず皮膚科医が考える病気は頻度順(よくある順)に・・・天疱瘡、扁平苔癬、薬疹>>>膠原病、免疫不全>>>>>癌、です。最初の、天疱瘡、扁平苔癬、薬疹は皮膚科が扱う病気です。口の中のただれで治りにくい場合は皮膚科も候補にいれていただくとありがたいです。

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朝が明るくなってきました。