Debate

今日は世界皮膚科学会の最終日でした。「(診断と治療を行う意味のある?)メラノーマ患者は本当に増えているのか?」というテーマで、「増えている。早期発見に努めて、病気でなくなる方を減らさなければならない」、「いや、ほっておいたら死亡するような本当に治療をしなければいけない患者は増えていない」という相反する2つの意見に分かれて議論されました。増えていない・・・という意見を出された先生が挙げた根拠は、主として増えているのは(診察する患者さんの数が増えたことによる)転移を起こさない軽症例であり、新規患者の増加に比べて死亡者数はそれほど増えていない、疾患概念(しっかんがいねん:ある病名がどのような状態までを含むのか?)の変化によって病理診断がオーバーになっている(30年前は良性と悪性の中間のグレイゾーンに入れていた症例が、その後、悪性の診断名になるようになった、あるいは悪性よりに診断してしまったなど)、でした。疾患についての啓蒙やダーモスコピーなどを用いたスクリーニング(米国では人口の10-20%が皮膚がんのスクリーニングを受けているそうです)のが本当に意味があるのか?という印象を与える講演でした。
なるほどなぁ・・・と考えていたら、次に「きちんと治療をしなけれなならないメラノーマは増えている」という意見の先生もたくさんの論文を引いてこれに反論していました。ここでも、なるほどなぁ・・・と納得してしまいました。
さて、議論は全面対決をしながらも終始なごやかな雰囲気で進みました。冷静に(なごやかに)議論を進めるというのはなかなか難しいです。自分の飯のタネに意味がないといわれれば心穏やかではいられませんから。
この学会ではほかにも、乾癬に対する光線療法の役割はまだあるのか?とか、重症薬疹であるTEN型薬疹の治療は症状が治まるまで特別な治療をせずに緩和的に見てくべきか、積極的に免疫療法をすべきか?というようなテーマがありました(自分は出席しませんでしたので内容は?です)。こういうテーマがあるということは、これらの問題については意見が完全に一致していないということが感じられます(もちろん、賛成する先生と反対する先生の比率が50:50とは限りません。5:95なんてこともあるかもしれませんが・・・)。
2015JUN12-2
昨夜競技場に向って歩いていたら、突然、オフィシャルバージョンのコカコーラのゲリラ的?な配布がありました。今回も、ちょっとアウエー感のある(個人的には結構楽しい)中で、緊張した試合になりました。

進行した皮膚がん患者を皮膚科医がみている国はとても少ない

世界皮膚科学会というなんだかすごい名前の会議に来ています。世界から1万5000人ぐらいが参加する数年に1回の会議です。バンクーバーの会議場は各会場のスペースが広く、またうまく配置されています。今日の午後は、ダーモスコピーと皮膚がんの治療に関するセッションが最も大きな会場で行われたのですが、参加者はあまり多いとはいえませんでした。特にメラノーマの治療のセッションはがらがらでした。演者が最後のスライドに「皮膚科医はメラノーマの治療を手放すな」というメッセージを出していました。
実際に転移を起こした皮膚がん患者を皮膚科医が診ている国は、私の知る限り、ドイツ語圏と日本だけですので、興味がないのはしかたがないのかもしれません。米国を含め多くの国では、最初の診断と生検と外来で処置できる軽症の皮膚がん以外は外科や腫瘍内科医に送ってしまうようです。
数年前、メラノーマの学会で「日本は最初の診断から積極的な治療ができなくなるまで皮膚科医がかかわっているのだ。」と胸をはって話したら、「日本は遅れているな。がんの治療体系が分業されていないのか」というコソコソ話を会場で聞いたと同僚に言われたことがありました。ある意味正しくて、かなりくじけました。ただ、まだ自分たちの方がきちんと診ることができると思ううちは(もちろんできないことやわからないことは専門の科の先生にお願いしているのは昔から一緒ですが)できる限りは患者さんと付き合いたいと思っている日本の病院勤務皮膚科医は少なくないと思います。
おいしいカキと小さいカップに表面張力ぎりぎりについでくれる(日本の屋台のコップ酒ののように)テーブルワインに酔って、愚痴気味のコメントになりました。
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カリフォルニアの青い空

バンクーバーに来ました

4年に1回開催される世界皮膚科学会という学術会議出席のためバンクーバーに来ました。バンクーバーは初めてです。雲一つない晴天で、日陰と日向の体感温度がかなり違います。FIFA女子ワールドカップ予選が始まっていました。19時のキックオフですが、日中のようです。試合が終了した21時ごろでやっと夕方が始まった感じでしょうか。危ない場面も多かったのですが、PKの1点を守り抜きました。
2015JUN8

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