小澤征爾さんが逝った

三男が生まれた翌日、産院の窓から松本城とたなびくサイトウキネンの旗が見えた様な気がする。松本で、毎夏、世界的な権威、小澤征爾がオケラを指揮するようになるのだそうだということを薄く聞いていた。中学生の時、クラシック音楽は、家にあった全集から適当にレコードを引っ張り出して日曜日の昼寝のときに睡魔に落ち込むツールとして聞いていたので、いろいろな名曲の最初のフレーズのみは耳に染みついていた。どのくらい回っていたかもしれないレコード盤の中央を空回りする音で気持ちよく眼をさました。小澤さんの希望を入れた音楽堂は徒歩数分の所にできたが、チケットがSS席から完売するという人気のため、チケット販売日前日からテント張って列に並んだこともある。初めてのクラシックの生のコンサートもオペラも小澤さん指揮であり、その後もサイトウキネンしか聞かなかったので、演奏のすごさはわからなかった。小澤さんの友人、ロストロポーヴィチさんのドン・キホーテの解説によって旋律と物語の関連性を知った。是非はともかく、私のような者にとって、楽譜が言葉で表現できることが新鮮だった。

瞬間に広がって、すぐに消えてしまう芸術は、はかなく(ちょっとずるいが)美しい。花火もそうだし、舞台も音楽もそうだ。サイトウキネンの最中に松本のローカルTVで小澤さんが言った言葉がいくつか記憶に残っている(不正確です)。”観客やオペラに市民参加している状況が、一番音楽を楽しめる状態かもしれない”(私の印象:スポーツも芸術もプロはきつい)。(小澤さんは天才ですか?という質問に対して、(小澤さんはあまり努力しなくても素晴らしい結果を出せるヒトを天才と定義していたようだったが))”これまで出会った音楽家の中で1-2人、2-3人はいたかな・・・。僕は違います”。小澤さんはマエストロらしくなく、よく市民のイベントに参加された。イベント後に、宿舎で遅くまでスコアを見直しているのだろうと想った。合唱

新しい書籍を出版しました。がん患者の皮膚トラブルに関するアトラスです

 

新しい書籍を出版しました。

がん患者さんの皮膚トラブルに関するアトラス(写真と解説)です。生涯を通じ、現在2人に1人が何らかのがんになると言われています。2014年にオプジーボ(ニボルマブ)が承認されてから、新薬の開発が続いています。がん細胞を単純に殺す、いわゆる従来の抗がん剤(殺細胞性抗がん剤と呼びます)しかなかった時代は薬疹や皮膚障害はそんなに多くありませんでしたが、免疫を強くする免疫チェックポイント阻害薬やがん細胞の増殖のブレーキやアクセルの異常部位を狙い撃ちする低分子分子標的薬の登場により、今までみたことがない副作用が出るようになりました。皮膚障害も同じです。通常、薬疹が発症したときは原因薬剤を中止するのが原則ですが、抗がん剤は簡単に中止できません。そこで、なんとか皮膚の症状を抑えながらがん治療を続けられるように工夫します。

皮膚科以外の先生方から皮膚科に紹介してよい(すべき)症状について聞かれることがこれまでもありました(私としてはどんなに軽い症状でも気軽に紹介していただいてよいと思ってますが)。そこで、危険度(皮膚科に紹介していただきたい緊急度)別に皮膚症状を解説した書籍を作る企画が立ち上がりました。2018年のことです。最初は「食べられるキノコ図鑑」をイメージして、危険度順に、赤、黄、緑のタグをつけた皮膚症状の写真集(アトラス)を作ろうと思いました。しかし、です。日々、他の科から紹介いただくがん患者さんの皮疹は、抗がん剤治療に関連するもののみとは限りません。よくある普通の皮膚疾患が結構多いのです(白癬症・・・水虫も結構多いです。あたりまえです)。それでも患者さんは抗がん剤との関連を心配して、治療の継続にしり込みする方もいます。これはもったいないです。そこで、がん患者さんによくみられる感染症、皮膚症状から診断しやすい遺伝性腫瘍、内臓がんを疑う皮膚症状、がん性皮膚潰瘍の治療、脱毛の診断と治療(がん治療前に少しでも安心してもらえるような患者さんへの説明方法)、など、など、分量がどんどん増えていきました。最終的には写真555枚、総ページ数400ページを超えてしまいました。医学書院もOKを出してくれて、この分量での出版が決まりました。

医師になってから、皮膚科医としては希少な皮膚がんの治療、特に抗がん剤の開発や画像診断などを専門としながら、皮膚科のど真ん中であるアレルギーや自己免疫疾患や感染症の領域を行き来しながらコウモリのように生きてきました。本書の作成に、そんな経験が少し役立ったような感じがします。

2024/2/13に発売予定です。

 

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