鼻や耳のまわりや腋にじくじくしたできものができて広がってきた!! とびひのお話です。 とびひはブドウ球菌や溶血連鎖球菌による皮膚の一番表面におきる細菌感染症です。伝染性膿痂疹というのが正式名です。この病気はかゆみがあり、引っかくと爪についた菌を他の部位の皮膚に植え込んでしまうことにより、病気がスキップするように島状に増えていきます。とびひ(飛火)という名前の由来です。
鼻や耳のまわりや腋にじくじくしたできものができて広がってきた!!
とびひのお話です。
とびひはブドウ球菌や溶血連鎖球菌による皮膚の一番表面におきる細菌感染症です。伝染性膿痂疹というのが正式名です。この病気はかゆみがあり、引っかくと爪についた菌を他の部位の皮膚に植え込んでしまうことにより、病気がスキップするように島状に増えていきます。とびひ(飛火)という名前の由来です。
じくじくして赤はだがでたところに、きたないカサブタがつくパターンと水疱をつくるパターンがあります。医者になりたての頃、あまりにきれいな水疱が体中にできている子供さんをみて、最初は何かわかりませんでした。
とびひはなぜか子供によくできます。皮膚バリアの成熟度の問題という説がありますが、本当のところはよくわかっていません。
患者さんへの説明と治療
・まず、風呂には毎日入って、傷を石鹸で洗うこと(痛いときは無理せずに)・・・カサブタの中にも菌がたくさんいますので・・・
・治療前におうちの方の承諾が得られればなるべく、細菌の種類を調べるための培養を行います。結果が出るのは3-4日後ですが、菌の種類と効く薬、効かない薬がわかります。3-4日後というのは、うまくいけば病気はなおってしまっているかもしれませんが、もし最初に出した薬が効かない場合は、次に出す薬を科学的証拠に基づいて選ぶことができます。リスク管理ですね。
・治療はフシジン軟膏とゲンタシン軟膏の2種類の抗菌剤を混ぜたものが塗り薬としては効果があるといわれています。
・でも、私は必ず抗生物質の飲み薬を処方します(外用剤は塗り残しの危険があるし、耐性菌(薬に抵抗性を持った菌)を発生させる危険も内服薬よ高く、初回の治療できちんと治さないと長引くので)。
・症状にもよりますが内服は少し長めに行います(1週間程度)。
・治ったあとは、残った湿疹病変をステロイド軟こうで治療して、最後の駄目押しを行います。
・おうちの方が医療機関に勤めている場合はMRSA(エムアールエスエー)という薬の効きにくい菌がついていることがあります。必ず治療前に培養をします。
さて、とびひには水ぶくれとしてみられるタイプがあると上で書きました。これは、顕微鏡でみると、皮膚の浅いところで、表皮の細胞(表皮は細胞がお互いに手をつないではなれないようにくっついて石垣のように積みあがっています)の間が切れてバラバラになった状態になっています。
この状態と全く似たような変化がみられる病気に天疱瘡(てんぽうそう)という病気があります。本来は自分を外敵(ばい菌など)から守る働きをしている免疫が、自分自身を攻撃してしまう病気を自己免疫疾患といいます。リウマチ、エリテマトーデス、甲状腺炎、他、自己免疫疾患はほとんどの臓器に病気を起こします。天疱瘡(てんぽうそう)は皮膚の表皮細胞と表皮細胞をつなぐ手(デスモグレイン)を切って、細胞をバラバラにしてしまう自己免疫疾患です。バラバラになったところには染み出てきた水がたまるため、外から見ると水ぶくれにみえます。非常に稀な病気です。
とびひというありふれた病気と、天疱瘡という稀で原因も全く違う病気が、なぜ臨床症状も病理所見(びょうりしょけん:顕微鏡で標本をみたときの所見)も似ているのでしょうか?これを解決したのが現在慶応大学の皮膚科教授をされている天谷先生です。ブドウ球菌が作っている毒素が表皮細胞間の手(デスモグレイン)を切ることがわかったのです。
感動しました。原因はわからなくても、自分の目でみた現象をごまかすことなく、とびひが天疱瘡のあるタイプと同じ病理組織像を示すことを記載した先人の勇気、それをきちんと解明した天谷先生の努力にです。最後に、形や見た目が似ているということは、起きている現象、原因にもどこかにている部分がありうる・・・目の前で起きていることをごまかさずに(変な理由をつけずに)、あるがままの状態でみる・・・ということの大切さを感じたのでした。
今回はくどくなりました。反省。