生物と無生物のあいだ

生物と無生物のあいだ(福岡伸一 著)を読みました。
どきどきするような、不思議な感動が沸いてくる本でした。
そして、個人的な思い出もよみがえってきました。
1988年ごろ、私もDNA合成酵素を使って、目的とするDNA領域の増幅をおこなっていたのです。


(本文より)生存に必須であろうと思われた遺伝子を発現しないようにしたマウスを作ったが、マウスは正常に生まれ、問題なく生存していた。・・・つまり、生物は経過中に足りないものがあっても、他の手段を使ってそれを補って、なんでもなかったように先に進める(生存に必須の分子を除いて)。
狂牛病(プリオン病)では異常なプリオンがたまることで問題がおこるが、プリオン自体の働きは解明されていない。このプリオンを完全に欠損したマウスを作っても、特に問題は起こらなかった。しかし、不完全なプリオンを発現するように作ったマウスでは、最初は正常であったが、徐々に神経学的な異常が出現してきた。
つまり、生物は、大事な部品が全くないなら、なんとか別のもので補ってから次の工程に進むが、変なのが入り込むと、そのまま次の工程に移行してしまう。しかし、不完全な部品を組み込んだままで工程を進めていくと、いつか大きな問題がおきる。
・・・ビル建設における強度不足の構造材を使用したときのような問題でしょうか?・・・いつか崩壊する・・・
著者は明言していませんが、環境問題にもつながる提言でもあると思いました。
私は、海や山や川が好きです。これらは皆、寛容で、多くの汚れを吸収しています。それでも、すでにマクロでその変化を感じるようになってずいぶん経ちます。突然大きく崩壊しなければいいのですが。
1988年ごろ、私もDNA合成酵素を使って、目的とするDNA領域の増幅をおこなっていました。
生物のDNAは2本の鎖がくっついた構造をしています。DNAはA,T,G,Cのたった4つの塩基でできていて、Aの相手はT、Gの相手はCと決まっています。片方の鎖が上からATTTCGGとなっていれば、もう片方はCAAAGCCと、ちょうどネガフィルムのようになっている。2本の鎖に熱を加えると1本づつに分かれる。温度を下げてから、これに、少し短い相補鎖とおかずのA,T,G,CとDNA合成酵素を加えると、1本の鎖に沿って適合するA,T,G,Cがくっついて2本鎖のDNAができあがります。もともと1本だったDNAを2本に分け、それぞれ2本鎖に復活させることで、2本の(2倍)のDNA鎖を作ることができます。つまり、試験管内でのDNA増幅することができるのです。これを繰り返すと、2の二乗でDNAの量を増やすことができます。
1.DNAを入れたチューブを90度以上に熱してDNAを1本づつにする。
2.60度~70度に下げて、短い合成DNA鎖を2本に分かれたそれぞれのDNAにくっつける。
3.40数度に下げて、おかずの塩基とDNA合成酵素を加える。
・・・・これで、1回目終了、DNA鎖は2倍になる。
1は金属のプレートで、2と3は家庭用のホットプレート2台を用意して、そこに60-70度と40度台のお湯を溜めてその中にチューブを移動させていきます。手作業です。これを25回ぐらい繰り返します。
汗びっしょりになりました。これが、「分子生物学か?」と思いました。
そのうち、耐熱性の合成酵素が市販化され、温度の変化が自動化された機械も同時に発売されたため、私の料理教室みたいな実験も機械にまかせることができるようになりました。
アパートは松戸の公園と短大のそばにありました。だから、「生物と無生物のあいだ」の最終章にある松戸の情景も実感があります。
いろいろなことが思い出される本でした。

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