学生さんの皮膚科実習の最初の日を受け持っています。
皮膚にブツブツがある・・・と、一般の方のようにしか表現できない学生さんに、なるべく丁寧に皮膚の状態を表現できるような練習を10年ほど前から始めました。
週末に同僚と近所の温泉に一泊 この旅館で一番好きな場所 雨音と新緑と真空管アンプ
2週間の実習に来るのは数名ほどのグループです。まず、教科書に載っているある皮膚疾患(かなり形に特徴のある病気を選びます)の写真のみを1人の学生にみてもらい、その学生に残りの4人が正確に絵を再現できるように言葉で説明してもらいます。
絵を見ている学生は、残りの4人が何を書いているかわからないようにします。
残りの4人は各自独力で説明を聞きながら絵を書きます。相談禁止です。
絵を描いている4人には、あまり想像して書かないことと、必要だけど説明から落ちている情報があれば書き留めておくように言っておきます。
そして、スタート。
すらすら淀み無く表現を始める学生もいますが、「うーん」と頭をかかえて、言葉がなかなか出てこない学生もいます。
残りの4人が描く絵もなかなかバリエーションがあります。
少し時間がたったら、写真を見ている学生に、一番似ていると思うものを例に挙げるように言います。これはけっこうきついようで、多くの学生はさらにうなります。脳みそがいやがっているのがわかります。「ないです」と答える学生には、後でいくつかの例を挙げると、あーあーとなるほど、と納得する学生が多いこと、そういうことのないように1つは挙げるように言います。さらに脳は苦しみます。
ここまで来たら、1回、写真を見て説明していた学生に無言で4人の絵をみてもらい、また写真の前にもどってもらいます。ここで、4人の絵の違いがどこにあるのか、そして自分の表現に何が足りなかったのか、ということを自覚してもらい、追加の説明をしてもらいます。
次に、4人に教科書の写真を見せます。自分の絵に満足する者、説明の不十分さに不満を漏らす者、いろいろです。それから、最適な表現を5人に検討してもらいます。
近似する表現については、以前に来た学生が言ってくれた表現をいくつか挙げると、たいてい「あー、なるほど」と言います。一種の「あは」体験でしょうか。
最後に、教科書の皮疹の説明を読んでもらいます。多くは教科書の表現より、自分たちの説明の方がよいという印象を持ちます。教科書に出ている医学用語による説明とそこから思い浮かべる印象にズレがあるからです。用語は覚えないと国家試験に落ちますので、きちんと覚えてもらいます。一方で、実際の患者さんを前にしたときは、教科書的な記述のままでは診断できないことがあることを感じてもらいます。
1回これをやりますと、2回目はとても上手に所見をとるようになります。
横道にそれます。
三浦しをんの「舟を編む」という本が家にころがっていたので、以前出張のときに持っていて読みました。長期間かかって辞書を編纂するお話です。相変わらず台本風で。映像が浮かびます。最後の方に、「既に亡くなってしまった方とつながるため、まだ見ぬ未来の人たちとつながるために言葉はある」というような文が出てきます。お酒が入っていたこともあり、衝撃的に涙腺がゆるみました。また、記憶は言葉である、というような表現もありました。眼で見たものを他の人に伝えるためには正確な言葉が必要ですし、自分自身の記憶にきちんと刻むためにも自分自身の言葉による表現が必要だと思っていたからです。
さらに脱線。
先日、ある会のあと、先輩の先生たちがワインバーに連れて行ってくれました。これまでいろいろなお酒を飲んできて、ある程度「差」というものがわかるようになってきた感じがしています。ここ数年はほとんどワインしか飲まなくなりましたが、ワインはうまくつかめないのです。なんどか試みましたが味を言葉で表現できないのです。したがって記憶にもあまり残りません。安いワインしか飲んでいないからでしょうか。ゴクゴク飲んでしまうからでしょうか。もったいないので、よさそうなワインについては印象を文章で記録するようにしましたが、あとで見たためしはなく、やはり記憶は残りません。
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ども!物事を言葉で伝えるのは難しいけれど、やはり言の葉に載せないと説明できないことは多いですね。というか、きちんと言葉にできないということは話す方も理解できていないということか。
一方で言葉はマクロ定義のような物で疎通する両者で同じ定義を共有していないと伝わらない。そこに教育や学習があるわけですが。でも患者の愁訴はまた一段次元が違いますね。患者さんは同じ定義の土俵を持っているわけではないので、言葉にするが、伝えきれないもどかしい物をもって訴えるのでしょうね。そこを掬い取るのが名医か。
NHKで時々やっている「ドクターG」。問診だけでどこまで病因を突き止められるか。あれ、面白いですね。
あら、なんかまとまりがなくなってきましたが、面白い記事でした。ユニークな試みですね。
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ありがとうございます。NRさんも面白いと言ってくれました。あくまでも訓練の一つです。慣れれば、形態識別はほとんど一瞬で決着がついているのだと思います。しかし、言語化するのは一瞬の判断をちょっと保留して、本当に間違いがないか検証する(この場合、決められたステップを踏む必要があるかもしれませんが)のにも役立っているのかもしれません。