攻撃された方は強くなり、しかし攻撃に依存するようになる?

これまで転移を起こしたメラノーマに効く薬は少なく、その効果も今一つでした。ベムラフェニブという舌をかみそうなお薬があります。30数年ぶりにアメリカで認可された新薬です。日本では現在治験中です。癌は同じ病名でも、患者さんごと、あるいは転移部位ごとに悪性度(増殖のスピードや転移する能力)はばらばらです。この40年間、癌はなぜ転移するのか、なぜ増殖が止まらないのか、といった疑問を明らかにするための研究が数多く行われ、多くの事柄がわかってきました。原因がわかれば、そこを止めてやれば癌を治すことができるかもしれません。メラノーマの細胞にもある確率で、増殖に関係するある遺伝子(BRAF)に変化が起きていることがわかっています。ベムラフェニブはBRAFが異常なメラノーマののみ、その増殖を止める薬です。BRAFに変異がない場合は効きません。細胞に増殖の命令を出す指令系統はたくさんがありますが、複数のルートの中で(途中)で、変な指令を出している奴が1人であれば、そこをたたけば増殖は抑制されます。
でも、癌細胞だってだだやられっぱなしにはなりません。癌細胞自身は「俺はがん細胞だ。みんなに迷惑をかけている。まことに申し訳ない。」なんて自覚していませんから、正常の組織のように、なんとか生き延びようとします。1本の司令伝達路の途中が切れれば、バイパスを作ろうと努力します。ある癌に対してよく効く薬が開発されても、しばらく使っていると効かなくなる(耐性:たいせい)のはこのような「がん細胞が何とか生き抜こう」とする努力によります。薬がなるべく長く効かせるにはどうしたらよいのか、というのが現在の新薬の大きな課題です。
ちょっと前の論文ですが、ベムラフェニブをメラノーマに使用するときに、効果が落ちてきたら一旦使うのをやめて、間欠的に使うと強い耐性ができなかったと(いつまでもだらだら使える)という面白い報告がありました。
Modelling vemurafenib resistance in melanoma reveals a strategy to forestall drug resistance
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早朝散歩
kamo chicago
カモの親子 みんなに大事にされています
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ミシガン湖 海のようです
jyun1-1
高層ビルのてっぺんが雲に隠れます


通常の抗がん剤であれは薬が効かなくなったら、他の薬に切り替えます。一般的には一旦効かなくなれば同じ薬を再度使用しても効かないだろうと考えます。ベムラフェニブは細胞増殖に関連する遺伝子をターゲットにした薬ですから、今までの一般的な抗がん剤とは異なります。増殖に関する異常がかなりピンポイントに存在するメラノーマ細胞に認められたかなり特殊な現象である点に注意が必要ですが、引用した論文では、ベムラフェニブを投与しているとだんだん効かなく(細胞数が増える)なりますが、止めると逆に増殖が止まる(細胞数が減る)ことが報告されました。つまり、ベムラフェニブに効かなくなったメラノーマ細胞は今度はベムラフェニブがないと生きられない依存体質になってしまっていたのです。
いつものようにヘタな例を挙げてみます。
「効かなくなるまで継続して投した場合」
1)細胞増殖の指令が流れる主管を(ベムラフェニブで)閉鎖する。
2)増殖の指令が来ないので細胞は増えなくなる
3)閉鎖が続くと指令が届くようバイパスを構築する。
4)バイパスからの指令に切り替えられた細胞だけが生き延びる。
5)バイパスを使える細胞の増殖が再開され腫瘍は大きくなる。
5)薬が効かなくなったので他の治療に切り替える。
「間欠投与の場合」
1)細胞増殖の指令が運ばれる主管を(ベムラフェニブで)閉鎖する。
2)増殖の指令が来ないので細胞は増えなくなる
3)閉鎖が続くと指令を得るためにバイパスを構築する。
4)バイパスからの指令に切り替えられた細胞が増え始める。
5)細胞増殖が再開され腫瘍は大きくなり始める。
6)ベムラフェニブを止める(幹線道路の封鎖を解除する)
7)主管を使った指令を使うベムラフェニブが効くタイプのメラノーマの細胞が増えてくる。バイパスを使ってなんとか生きていたベムラフェニブに依存していたメラノーマ細胞は駆逐されるようになる。
8)主管を使った指令を使うベムラフェニブが効くタイプのメラノーマが増えてくる(腫瘍はまた大きくなる)
9)ベムラフェニブを投与すると、主管を使うメラノーマ細胞には効くのでまた腫瘍は小さくなる。
*2)へ戻る。これが繰り返されるので悪くなったり良くなったりしながらも大きな悪化は起きない。
この研究の面白い点は、「徹底的に痛めつけない」ことが、耐性(薬が効かなくなる)への解決策(時間伸ばし)になる可能性(あくまでも可能性)を示していること、攻撃に対抗するメラノーマ細胞が攻撃い依存している(攻撃によって自分の親より有利に生きられる)こと、そしてメラノーマ細胞同士(親と子)で生存競争をさせるという考え方、でしょうか。細菌と抗生物質の関係にも似ています。
治らないが悪くもならないという状態です。癌はきれいさっぱりになおればそれがベストですが、転移を起こしてしまった場合はなかなか難しいのが現状です。でも、一歩ゆずって、少なくても病気の進行が止まり、それが長く続き、患者の負担がすくなれば、それもよしとしようではないかという考え方です。
以上はあくまでの私個人の空想です(為念)。

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