患者さんに話してもらう病歴は病気の診断にもっとも役に立ちます。でも、患者さんが診断の決め手になるような病歴を十分に話してくれることはまれです。もちろん、熱傷や外傷のようにはっきりとした原因がわかる場合を除いてですが。多くは患者さんの一番困っている症状(発熱やどこかの痛みや皮疹など)から、医師のほうが頭にいくつかの可能性のある病気を思い浮かべて、それに合うような病歴がないかお聞きしながら診断を詰めていくことが多いと思います。でも、皮膚科は見ただけで多くのよくある病気は診断できてしまいます。でもそこに落とし穴があります。痛い思いを何度もしてきました。
越冬野沢菜が急に立ち上がり花をつけ始めました 春ですね
梅の花が最盛期を過ぎました。もうすぐ桜です。
耕して一服
若いころ、病歴などは聞かないでまず皮疹を見れば、すべてがわかる、というようなことを先輩から聞いたことがあります。確かに20年以上も皮膚科医をやっていると、多くの皮膚疾患はちらっと見た瞬間に診断できるような感じがします。暗黙知というようです。山でキノコをみたときにすぐ種類がわかるような感じでしょうか。しかし、ちらっ、だけですと間違う可能性もあります。個人的には、誤診の原因の多くは思い込みです。「アッ、これだ、きっと」と強く思ってしまったときに間違った方向(診断)に進みやすいのではないかと思いっています。
鑑別診断(かんべつしんだん:1つの症状に対して考えられるいくつかの病名)を漏れなく挙げるもっとも有効な方法は病歴の組み合わせだと思っています。皮疹を見てしまうと、頭は楽をしようとするので、一番思いつきやすい病名を挙げてしまいます(自分の場合です)。そんな間違いを避けるひとつの方法は3-4個のキーワードから鑑別診断を挙げておくことではないかと思っています。
たとえば、首xおできx熱くない(熱感がない)
ある日突然、1-2cmの円形の痛くて赤いしこりができた。ほとんどすべてが「せつ」(おでき)か粉瘤です。細菌による病気です。細菌が感染すれば赤くなり、熱くなります。免疫が発動して血管が開き、細菌に対しては好中球などの白血球が発動するからです。好中球がたくさん集まると肉眼的には黄色いドロッとした液体に見えます。これが「膿」です。
首xおできx熱くない(熱感がない)が普通のおできと異なるのは赤いのに熱くないという点です。診断は「結核」です。結核の症状の一つである、「皮膚腺病」といいます。