皮膚は表面から、表皮、真皮、そしてその下に皮下脂肪、さらにその下に筋肉があります。手の甲の皮膚をつまんで持ち上げて上がってくるのは表皮と真皮です。皮膚には汗の管、毛、脂の腺、血管、神経など、たくさんの器官がありますが、それらを支えている(間を埋めている)のが膠原線維(こうげんせんい:成分はコラーゲン)や弾性線維(だんせいせいんい:成分はエラスチン)です。伸び縮みにも関係しています。これらの線維を生み出しているのが線維芽細胞(せんいがさいぼう)です。膠原線維や弾性線維は毛や神経や血管などの間を埋めている成分(間質)ですから割合地味です。縁の下の力持ちではありますが、脇役のような感じでもあります。
この一見地味な線維芽細胞にも系譜があることがわかりました。昨年末のNatureという雑誌に載った記事から。
1年間の勢力争いはオレガノの1人勝ち
タイム
ホースラディッシュ(昨年の新人)と三つ葉
イチゴの花も咲きました
山椒の芽
今年4年目の小梅と3年目のどんぐり
レモンバームも
受精後卵子が分割していろいろな臓器が作られていきます。最初は1個の細胞だったものがいろいろな役目を持った細胞に分化していくわけです。最終的に決まった仕事をやれるようになった細胞は、その道のプロではありますが、他の分野の仕事はできません。皮膚の汗の管に関連する細胞は汗の分泌のプロですが、白血球のように血管を移動して細菌を攻撃することはできません。1つの仕事に専念するプロでも、何代かさかのぼれば別の道を選択できる時期があります。細胞でいえば、胎児のときはあまり細胞の役目が細分化されていません。いくつか大まかなグループに分かれていますが、1つ1つのグループは、まだ母なる細胞集団であり、それぞれの役目に応じた細胞になっていく前の段階です。
前置きが長くなりました。線維芽細胞は皮膚の真皮の間質をしめる膠原線維のところどころにぽつんぽつんと存在する紡錘形の細胞です。マウスを用いた実験では、この線維芽細胞にも系譜があることがわかりました。
胎児期までさかのぼれば線維芽細胞にも母なる線維芽細胞がいます。これは、まず、真皮の浅いところに分布する型と深いところに分布する線維芽細胞に分化します。浅いところに分布する線維芽細胞は毛の組織を作るのに必須の細胞でありました。胎児の早い時期の表皮に毛はありません。平らな表皮の一部から蕾のようなふくらみができ、それを深いところに引っ張っり伸びて毛ができます。この引っ張るのが皮膚の浅いところに分布した線維芽細胞でした。特殊な技術でこれらの線維芽細胞ができなくなるようにすると毛もできませんでした。浅いところに分布した線維芽細胞は毛を作る集団とは別に毛を立てる筋肉(立毛筋)になりました。筋肉にもなれるんですね。
じゃあ、深いところに分布した線維芽細胞は何をするのか?何になったのか?
深いところに分布した線維芽細胞は皮下脂肪の脂肪細胞になりました。
また、皮膚の深い傷をつけると、最初に増殖して傷を埋めるのは深いところに分布した線維芽細胞でした。
1)傷ができる
2)深いところに分布する線維芽細胞が傷を埋める
3)傷の表面を表皮が這う
4)新しくできた表皮の下に浅いところに分布する線維芽細胞が出現します。
5)表皮を深いところに引っ張り込むように毛を作り、立毛筋が作られます。
深いところと浅いところの二つの線維芽細胞がないと皮膚はきちんと再生できないし、順序も大切なわけです。ただ間質を埋める膠原線維の中にぽつんぽつんと存在しているだけにみえた線維芽細胞にこんなドラマチックな系譜があったのです。見かけによらんぞ、線維芽細胞です。
単なる間質が実はフィクサー(きちんと手続きを踏んでいるので悪者ではありませんが)だったわけです。
今から25年ほど前の出版ですが、実験医学という雑誌に大野乾先生が連載していたエッセー?をまとめた「大いなる仮説」「続大いなる仮説」という書籍があります。その中で「上皮は間質によって制御されている」といったような記述があったような記憶があります。25年前はよく意味がわからなかったのですが、仮説の1つが検証されたようでなんだかうれしく感じました。