皮膚は内臓の鏡、などという言葉があります。デルマドローム(内臓疾患と関係する皮膚の症状)という単語もあります。皮膚科の教科書にも肝臓の病気と関係した皮膚疾患がたくさん書かれています。また、Web上の相談サイトなどでも、さまざまな皮膚症状についての質問について「肝臓を調べたほうがよい。内科でみてもらってください」というようなコメントも少なくありません。でも、私の経験では、一部の皮膚疾患を除いて、特に今まで肝臓の異常がない方で肝臓の異常を疑って血液検査を行う必要のある方はかなり限られると思います(あくまでも個人的な経験に基づく印象です)。
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繰り返しになりますが、個人的な経験にもとづくコメントです。
今まで肝臓の検査で問題がなかった方が、ある日突然皮膚に何かの症状がでた。あるいはいろいろな皮膚科で治療をしたが治らない。内臓に病気がないか心配になって内科の先生にみてもらう。そこで一般的な血液検査をしてもらったが特に異常がない。「やはり、皮膚科でもういちどきちんとみてもらったらどうですか?」と言われて紹介いただくことがあります。
私がかならず肝臓をチェックするための血液検査を行うのは次のパターンです。よくある皮膚病(このブログの主旨です。めったにない状況は無視していますので、教科書的には不十分な記述になります)についてのみ触れます。
1.薬疹をうたがったとき。ある日突然全身に(あるいは左右対称性に)皮疹が出たときは薬疹かどうかを考えます。外来で診る薬疹のほとんどは軽症で、原因薬剤を止めればゆっくりと皮疹は消えていきます(ふつうは消えるまで数日はかかります。この種のアレルギーはいったん始まってしまうとすぐには終われません。)。血液検査では好酸球というアレルギーの時に増える白血球が増えていないか?貧血や血小板の減少がないか?肝臓と腎臓に異常が出ていないかチェックします。皮疹が出る前(もし調べていれば)は正常だった好酸球数が皮疹が出た後に増えていれば薬疹の可能性が高くなります。
2.はしかや風疹のように全身にぶつぶつがたくさんできる状態を中毒疹(ちゅうどくしん)といいますが、原因がとくていされていないため不完全な病名です(負け病名)。中毒疹の原因の多くはウイルス、リケッチア(ツツガムシ)、細菌(溶連菌など)などの感染や薬疹(健康食品や漢方などによるアレルギーを含みます)です。中毒疹では血液を検査します。項目は上記1+CRPなどの炎症反応などです。
以上です。それでも検査で肝機能異常をうたがう所見が出る方はまれで、異常があっても多くはわずかに異常値を示すのみで、ただちに肝臓の専門家にみてもらう必要性がある方はかなりまれです。私の経験では年に数例以下です。
すでに肝臓が悪い(慢性肝炎、肝硬変、肝がん)場合には関連する皮膚症状はたくさんあります。手の平が赤い、鎖骨あたりから両肩にかけて細かい血管が増えている、などです。結膜が黄色い、あるいは手の平が黄色い時に黄疸を心配して精密検査を勧めるコメントをみかけることがありますが、黄疸が出るような方は日本においてはほぼ100%、すでに肝臓の専門医にみてもらっていると思います。
皮疹があるときに内科を受診したときと皮膚科を受診した時では、支払う医療費が皮膚科は内科の1/3程度で済むというデータを見たことがあります(すいません出展を忘れました)。医療費の差は、主に血液検査の費用と薬剤費ではないかと個人的には想像しています。皮膚科を受診する方のほとんど(重症患者の多い総合病院や大学病院を除く)は、血液検査は不要で、外用薬+/-せいぜい1種の抗ヒスタミン剤だけで済む場合が多いと思います。非皮膚科では血液検査を行うことが多いのかもしれません。一方、皮膚科では血液検査をしなさすぎる、という意見もあります(保険診療では科ごとに1人当たりの標準的な医療費が算出されていて、皮膚科は内科よりもずっと低額です。高額な患者が多いと医療費をチェックする機関による審査がなされる危険性がある、といった理由があるのかもしれません)。
最後に再度言いわけです。上記コメントは医療機関への受診を妨げるものではありません。心配であれば医師に相談してください。