副作用が主作用に

製薬メーカーはたくさんの物質を作ってそれが治療薬になるかどうかスクリーニングを行い、動物実験をし、有効性と毒性をチェックし、次にヒトで試します。ほとんどすべての物質は目的とする役目を十分はたせないか、副作用の問題で日の目をみないで消えていきます。でも予想外の副作用が主作用になって世の中に出てくることがあります。昨年認可された薬剤にまつ毛を濃くする外用剤があります。この薬は本来緑内障のお薬として開発されました。
グラッシュビスタR

アニー べたなストーリーですが、泣けて笑えて心が温まります。また1つすばらしいミュージカル映画ができました。おすすめです。


製薬メーカーはたくさんの化合物を作ってそれが治療薬になるかどうかスクリーニングを行い、動物実験をし、有効性と毒性をチェックし、次にヒトで試します。最初は副作用が許容できるようなヒトでの投与量を決める臨床試験を行い、次に効果をみます。もし副作用がなんとか対応できる範囲で、なおかつ現在ある薬剤より有効であれば国により製造販売が認められれば病院で患者さんに注射したり処方したりできるようになります。日本で承認を受けるためには臨床試験あるいは治験を行うことが必須です。動物実験で有望と思われても(この段階でかなりの薬剤は脱落しますが)ヒトに投与したら予想外の副作用が出て開発が中止になることがほとんどだそうです。莫大な費用が無駄になります。小野薬品のCMでは、新薬の開発成功率0.001%と言っています。ここ何年かメラノーマの新薬の臨床試験に参加していますが、製薬メーカーの担当者と話していて驚いたことがあります。薬学部の修士や博士課程を出て製薬メーカーに入社し、創薬にたずさわっても、自分が担当した薬物が発売までにこぎつけることができるのは数十人に1人程度と聞きました(個人的な印象であり、メーカーによってもこの率は大きく変わると思います。あくまでも印象です)。つまり、ほとんどは定年まで頑張っても新薬の販売までたどり着けない研究員が少なくないということです。ショックでした。もっと効率がよいと思っていたからです。新薬の開発は言葉が不適切かもしれませんが多くの失敗を前提としたリスクの高い分野といえるかもしれません。資本がないとできません。
日本は医療費がうなぎ上りに増えていて、このままでは皆保険が破たんする可能性があります。なるべく医療費を下げるためにジェネリックを推奨する意見は当然だと思います。でもジェネリックメーカーは(製剤によっては先発メーカー製品にない剤型があって有用な場合もありますが)、やはりコピー商品を売っているわけで、開発の大きなリスクは負っていません。日本でも有望な薬物がたくさん開発されています。新薬を開発しようとしているメーカーにある程度の利益を担保してあげないと新薬の開発がしぼんでいくと思います。
話が大きくそれました。少しずつもどします。
科学の進歩は一次関数の傾きではなく、階段状に起きます(科学だけでなく個人の技術の上達も、成果から見ると階段状ではないかと思います。もちろんくさらずに連続的に努力した方にのみ起きる現象ですが)。この階段を1段あるいは、ほかに新しい階段(新しい道)ができるほどの進歩のなかには、ちょっとした失敗から起きることが結構多いのではないかと思います。ただ、いい加減な研究をしていると、予想外の結果が出た時には、自分のやり方が間違っていたのだと思って予想外の結果を無視してしまいます。いつもきちんとやっている場合は、「俺のやり方は間違っていない。したがって予想外の結果はそれ自体に意味がある」と解釈できるわけです。えらそうに言ってますが、個人的には後者の経験はなく、自分のやり方が間違っていたと思っていた実験結果が実は大切な事象だと後に他の研究者の論文を読んでわかったことが2回あります。
さて本題の一歩前へ
20年前にミノキシジールという薬が男性型脱毛に効果があるか試す臨床試験をうちの病院でやってました。ミノキシジールはもともと降圧剤として開発されたのですが、サルへの投与実験で頭の毛が増えたため発毛剤としての道を歩いたわけです。無事?商品名リアップとして世の中に出ました。ちなみに男性型脱毛に対する効果が医学的にかくにんされているのはリアップ(5Xを買いましょう。それ以外は効果が弱いです)とプロペシアと抗菌剤のニゾラール(商品名)のみです。なんかの草や昆布や漢方や、いろいろ出てますが優先順位は上記です。
本題へ
昨年承認されたグラッシュビスタRはまつ毛を濃くする薬です。すでに市場では売られていました。この薬は本来緑内障(眼圧が上がる病気)のお薬です。眼科で臨床試験が行われていた時にまつ毛が濃くなるということが起こったのです。ある皮膚科の先生がまつ毛が濃くなるという副作用?について臨床試験を行っていた眼科の先生に相談されたときに、「これはいける」と思ったそうです。毛生え薬になると思ったのです。しかし、残念なことに頭に塗っても毛は生えませんでした。その先生は毛生え薬への応用をあきらめたそうです。しかし、後日ネットでまつ毛を濃くする塗り薬が売られているの見てしまったと思ったそうです。おじさんにはまつ毛を濃くするという使い方が思いつかなかったのです(私も気づかなかったと思います)。

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