久ぶりに書評です。本は読み流すことが多いのですが、年に1-2度たくさんの附箋を張りたくなる本に出合います。
もちろん感銘を受けた本のみに起こす行動ですが、あとで自分の仕事関係で引用したいという業務的(せこい)な理由もあります。
ジェローム・グループマン(美沢恵子訳)の「医者は現場でどう考えるか」 原題How Doctors Thinkです。
一般書ですが、医師が誤診をしてしまう理由と患者側の予防法を実例を挙げて解説したりっぱな実用書(医学書)です。
ほとんどが医師側の要因ですが、正しい診断に持っていくためには患者さんの協力も必要であることが述べられています。
著者が本書を書いた動機は「自分で考えることを放棄し、判定システムやアルゴリズムに、自分に代わって考えてもらおうとする若い医師たちが実に多くなった」(あとがきより)からだそうです。
もし病気の診断が機械的にできればそんな楽なことはありません。要素が血液データなどの数値であればコンピューターがはじき出してくれます。
しかし、皮膚科にはすさまじい数の疾患があり、その単一性も結構バラバラで、皮疹自体の評価が究極のあいまいさを持ち、かつ稀少疾患も多いので、なかなか診断基準や治療の方針を決めたアルゴリズムできません。
しかし、早くから診断基準の作成が行われた膠原病などでは「診断基準の00項目のうち4つを満たしたので00と診断しました」というようなコメントを学会や論文で見ることがあります。逆に、項目を満たさないので00ではないようです・・・というコメントを聞くこともあります。昨日までは3つの症状と検査しかあてはまらなかったのですが、本日4つ目の症状が確認されたので今日から00という疾患になりました、なんていうことになります・・・これはちょっとおかしい感じがします。手が冷たくて、指爪の根元の甘皮が伸びて、出血点があり、血管の形も変化していいる典型的なレイノー症状(強皮症の軽いタイプ)があっても、ほかに血液データがそろわないと、「あなたは特に問題ない」と言われてしまうわけです。
実際に患者さんを診たことがない方は仕方ないと思いますが、病名がいっしょでも、症状の種類や重症度はグラデーションであり、さらに各症状とその重症度の組み合わせは患者さんごとに異なります。診断基準は、1)ある治療法の効果を確認するために、ある程度重症度の患者さんをそろえるため、2)社会的な補助を必要とする患者さんの重症度を規定するため、など、線引きが必要な場合や、もちろん積極的に治療を開始すべきラインを提唱する意味はあると思います。でもただ病名をつけるためだけに使用するのは問題があるかもしれません。
病院にはたくさんの患者さんが来ますが、検査をしてもどこも悪いところが見つからない場合があります。著者は医師として、患者として様々な経験をしてから、「どこも悪くないですよ」ということを止めたようです。「具合が悪いというあなたを信じていますが、どこが悪いかのかまだ解明できません」と言えるようになったと述べています。確かに、自分を振り返っても「申し訳ないが診断名がわからないのです」と言えるようになるまでには医師になってからかなりの時間がかかりました。あまり連発することはできませんが。たぶん死に直結するような疾患ではないと予測しているが、診断(病名や原因)がわからないという患者さんは(個人的な経験では)少なくないのです。
ども。ご無沙汰です。NHKのドクターGを見ています。患者は病気を伝える術がありません。せいぜい鈍い痛みとか、針で突くような痛みとか、ふらふらするとか、自分の言葉でしか表現できません。患者の主訴、履歴、症状、バイタルから原因を探りだす総合診療に興味を持っています。
おふくろが数年前から歩いていて急に止まったり、向きを変えたりするとフワフワとしためまいを生じ、歩くのが危なっかしいのです。幾つか病院で診療を受けても、老化で筋力が弱っているとか、アタリマエのことしか回答がないのです。少し遠くの総合診療にも相談させたことがありますが、納得の行く回答がありません。原因がわかれば対応の仕様もありますが、なかなか難しいですね。患者から見れば5分足らずの診療で、納得の行く回答が得られないのはなんとももどかしいものです。
一方、医者の立場でも、何でもわかっているわけではないし、千差万別の症状に少ない情報から原因を割り出すのは至難でしょうと思います。私自身も毎月通っている医者がいますが、信頼関係を築くまでの深いつながりではありません。今の薬の処方で良いのか疑問に思うこともあります。
少子高齢化の中では、病気になってから医者に診てもらうのではなく、予防医学、予防医療が重要になるでしょう。お互いに信頼できる総合診療科のホームドクターに出逢える世に中になってほしいなといつも感じています。
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コメントありがとう。言葉や単純な症状を組み合わせで診断することはとても有効な手段であり、皮膚科でも同じだと思います。自分もよく使う手段ですが、昔ある有名な病理医が「病理診断はゲームじゃない」と言ったときの苦しそうな顔が忘れられません。お調子者の私はときどきそのことを思い出して反省します。