くちびる(クチビル、口唇、こうしん)が腫れる疾患はたくさんあります。高血圧の薬や補体欠損症などを除けば、まずは直前に食べた食物、クチビルに塗っているリップクリームや金管楽器のマウスピースやコートする松脂などを疑います。唇に付く可能性のあるものとして、歯磨きも患者さんに一旦止めてもらいますが、原因であったことはこれまであまりありませんでした。
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何か月か唇が赤く持続性に腫れて治らない患者さんがいました。少し硬さもあり、口唇のまわりの粘膜も腫れていたので「肉芽腫性口唇炎、にくげしゅせいこうしんえん」を疑い、血液検査や肺のレントゲンなどでサルコイドーシスの病変がないことを確認してから金属のパッチテストや皮膚生検を予定しました。
今年も生ハムを仕込みました。一部を燻煙してみました(パンチェッタになるか・・ならないだろうなぁ)。今年の12月は気温が高めのためか雨がちで外に干せません。
生検までの間、念のため使用中の歯磨き粉と口腔内洗浄剤も中止し、ブラッシングだけにしてもらいました。1週後の生検予定日、診察室に入ってくるなり患者さんが笑顔で「よくなりました」と言うではないですか。よく聞けば(それまでも何度かよく聞いたはずでしたが、聞き方が悪かったようです)唇が腫れるようになる前に、普通の歯磨き粉から知覚過敏用の製品に変更したとのことでした。硝酸カリウムの入った製品です。患者さんにご協力いただき腕に以前使っていた歯磨き粉、口腔内洗浄剤、知覚過敏用歯磨き粉を10円玉程度の範囲に3日ほど塗ってもらいました。知覚過敏用歯磨き粉を塗った部位だけ真っ赤に腫れてぶつぶつもできました。さらに原因の成分を調べるため、メーカに原料を依頼しましたがあっさり断られました。硝酸カリウムを含め、何が口唇腫脹の原因成分だったかまだわかりません。
普段から、体のある部分に限局した皮膚炎が突然出たら、まずはそこに付着する可能性があるものを疑う・・・といのは皮膚科診断の原則で、毎回決まり文句のように患者さんに伝えることです。しかし、(私の)頭のどこかでは、まだすぐ思いつくかぶれ以外のちょっとむずかしい病気に短絡していたようです。「かぶれ」の診断は難しいです。
医学的にカリウムが知覚過敏にどの程度効くのかという点もちょっと調べてみました。EBM(証拠に基づいた医療)の本家であるコクランレビューでは、「知覚過敏に対するカリウムの効果についてはデータが足りない(意訳入ってます)」でした。なお、本記事に硝酸カリウム入り歯磨き粉を否定する意図はありません(為念)。
ども。アレルギー反応?!は難しいでしょうね。ドクターGみたい。でも原因が分かる前に治ってしまったら番組にはならないかな・・・(^^)