今週末の札幌は晴天で最高気温が30度近くまで上がりました。強い紫外線で街中を彩る花や新緑の色が際立ち、スマホを向ければどこを撮っても美しい写真になります。
さて、偶然入った古本屋で「日本の色」という本に目が留まりました。大岡信さんによる朝日選書(1976)版講談社(1980)版が並んでいたので両方購入しました。日本人は色というもの(あるいは色を表現する言葉)をどのようにとらえてきたのか、ということに関して源氏物語や枕草子などを題材にした座談会や言語学者、染色家、歌舞伎役者、画家、などにより、いろいろな分野からの意見が掲載されています。どの項も面白かったのですが、特に気に入った記述を書き留めておきます。
草森神一(評論家:音更町出身)
日本人にとって色=物だった。それは自然から盗み取ったものであり、したがって色を表現する名詞は数限りない。ある物体の色は固有のものではなく照らされた光の強弱によって移ろう。したがって固有の物に関連付けられた色は定まった色ではない。日本人は色の分類に物足りなさとむなしさを感じたのではないか、と述べておられます。
この解釈はけっこう面白いと思いました。植物や花、動物、自然現象、などの名前が付けられた色名の始まりはそうだったのかもしれません。ただ、古代から色の名は顔料や染物の色合いを元の物質名で表現してきました。色名は様々な要素(用途)でつけられてきたんだと思います。
大野 晋(言語学者:東京出身)
西洋における色と言語との関係を解説した書籍「言語が違えば、世界も違って見えるわけ (日本語) ガイ ドイッチャー (著),椋田 直子 (翻訳)では色名は、黒、白、赤、の順に始まって、白と黒は明るいと暗いを起源にしていると解説されていました。日本でもこのような意見が多いのですが、大野は言葉のアクセントから、たとえば”黒”は”暗い”、とアクセントが異なり、むしろ顔料系(土由来)の黒系統を指す言葉を起源にしているのではないかと述べています。
皮膚科の実習時には皮疹の医学的表現を学生に教えますが、せいぜい、明るい赤、淡い赤、暗い赤(黒ずんだ赤)、紫がかった赤、白っぽい赤、程度です。
・・・色は診断上とても大事なのです。明るくて淡い色の赤はでき始めの皮疹、濃い赤は最盛期、黒ずんでくると終盤、など、皮疹ができてからどのくらいたっているかを推測できます。また、良性のリンパ腫は明るい赤、悪性リンパ腫や内臓がんの転移などは暗い赤色を示すことが多いと個人的には思っています・・・
もちろん色はグラデーションでつなぎ目はなく、3要素(色相・明度・彩度)によって多彩な調子が出せます。(個人差が大きいですが)人間の眼がどの程度区別できるのか、という問題もあります。今、皮膚科領域でもAIを用いた診断法の研究が進んでいます。完成されたAIはばらついた条件下で色をどの程度参考にしているのか興味があります。

 

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