新しい書籍を出版しました。
がん患者さんの皮膚トラブルに関するアトラス(写真と解説)です。生涯を通じ、現在2人に1人が何らかのがんになると言われています。2014年にオプジーボ(ニボルマブ)が承認されてから、新薬の開発が続いています。がん細胞を単純に殺す、いわゆる従来の抗がん剤(殺細胞性抗がん剤と呼びます)しかなかった時代は薬疹や皮膚障害はそんなに多くありませんでしたが、免疫を強くする免疫チェックポイント阻害薬やがん細胞の増殖のブレーキやアクセルの異常部位を狙い撃ちする低分子分子標的薬の登場により、今までみたことがない副作用が出るようになりました。皮膚障害も同じです。通常、薬疹が発症したときは原因薬剤を中止するのが原則ですが、抗がん剤は簡単に中止できません。そこで、なんとか皮膚の症状を抑えながらがん治療を続けられるように工夫します。
皮膚科以外の先生方から皮膚科に紹介してよい(すべき)症状について聞かれることがこれまでもありました(私としてはどんなに軽い症状でも気軽に紹介していただいてよいと思ってますが)。そこで、危険度(皮膚科に紹介していただきたい緊急度)別に皮膚症状を解説した書籍を作る企画が立ち上がりました。2018年のことです。最初は「食べられるキノコ図鑑」をイメージして、危険度順に、赤、黄、緑のタグをつけた皮膚症状の写真集(アトラス)を作ろうと思いました。しかし、です。日々、他の科から紹介いただくがん患者さんの皮疹は、抗がん剤治療に関連するもののみとは限りません。よくある普通の皮膚疾患が結構多いのです(白癬症・・・水虫も結構多いです。あたりまえです)。それでも患者さんは抗がん剤との関連を心配して、治療の継続にしり込みする方もいます。これはもったいないです。そこで、がん患者さんによくみられる感染症、皮膚症状から診断しやすい遺伝性腫瘍、内臓がんを疑う皮膚症状、がん性皮膚潰瘍の治療、脱毛の診断と治療(がん治療前に少しでも安心してもらえるような患者さんへの説明方法)、など、など、分量がどんどん増えていきました。最終的には写真555枚、総ページ数400ページを超えてしまいました。医学書院もOKを出してくれて、この分量での出版が決まりました。
医師になってから、皮膚科医としては希少な皮膚がんの治療、特に抗がん剤の開発や画像診断などを専門としながら、皮膚科のど真ん中であるアレルギーや自己免疫疾患や感染症の領域を行き来しながらコウモリのように生きてきました。本書の作成に、そんな経験が少し役立ったような感じがします。
2024/2/13に発売予定です。