アフリカを出た現生人類がどのように世界に拡散していったのか感染症の側から観察してみようと、このブログでいくつかの記事を書いてきました。ある病原体を世界中から採取し、その遺伝子の変異から先祖はどの地域の人のものか?という報告を紹介してきました。
現生人類がアフリカを出てから少なくても数万年以上たっているわけですから、対象になる感染症はその年月に耐えらるような特徴が必要です。インフルエンザのようにすぐに拡散し、どんどん変異していくような菌では調べられません。かなり密接な関係にないとうつらない菌がベストなわけです。
例えば、HTLV1(成人T細胞性白血病リンパ腫ウイルス:母乳)、ピロリ菌(口移し?)、ハンセン病(乳児期の添い寝から呼吸器へ)、などです。
しかし、最近ふと、おおもとの考古学や遺伝学の見解はどうなのかまったく知らないことに気づきました。そこで本屋さんでたまたま手に取った以下の本を読んでみました。原著は2003年と少し古く、著者のオッペンハイマー先生はかなり個性的な意見を述べており、そのまま一般化できないのですが、読みながらどきどきしてきました。面白かったです。結構有名な本のようですね。
この本に書かれているのは、母型の遺伝学的分岐をみるミトコンドリアDNAのデータ、父型のY遺伝子のデータに気候変動による大陸の植生や陸地の大きさなどのデータを加え、さらにそこに言語学、そして考古学による遺物の年代と対比しながら現生人類の世界への拡散の経路と年代を推測しています。壮大な仮説です。
アジア人の起源を求めて、や、誰がアメリカに渡ったか、という章もあります。縄文人やアイヌ人のデータもたくさん出てきます。アイヌ人(世界で最も早期に壺を作った民族だそうです)が持つ遺伝情報はアフリカを出たばかりの祖先に近く、東南アジアやアメリカ大陸にスポット状に存在する民族のそれと似ていたりします。たぶん初めて世界の末端に到着した民の一つだった可能性があります。ミトコンドリアのB4型の中で日本人が持つタイプとアメリカインディアン(ピマ族)の一致なども興味あります。歩いて行ったんですね中南米まで。このピマ族というのは糖尿病を発症しやすい民族として有名で、ピマ族の生活習慣から糖尿病の発症に関する因子が抽出されて、今も利用されているようです。たぶんかなりの飢餓(低血糖)に耐えられる民族が選別されて世界の末端まで行ったのかなぁなんて想像してしまいました。
人類の移動仮説もおもしろかったのですが、技術(石器の質)は種によるのか伝搬によるのか、白人至上主義から派生してきた仮説への批判や新しい仮説に関する学会の対応の問題などにも言及していていました。
たとえば、
石器などの技術の差は本当に種の差なのか?技術は種を超えて伝搬するのではないか(例えばホモサピエンスからネアンデルタール人へ)?といった考古学的検証への疑問です・・・現在でもニューギニアなどの奥地で原始的な生活をしている方々がいますが、現代の最新の道具を持って行って使い方を教えれば使えるわけですから、生活様式が原始的だから種が古くて能力も劣っているという考え方はなりたたないわけです。でも従来の考古学では石器の技術に差があれば、高い技術を持った方が新種であると考えてきたわけです(すいません。専門外ですので間違っているかもしれません)。
旧説に対抗するような新しい仮説が出て来たとき、旧説を唱えていた(通常オーソリティー)学者は自分の説が破たんすると自分の人格までもが否定されると恐れ、強い抵抗を示すことがある(けっこう多い?)のではないかという批判も書かれていました。間違っていたと気づいたら、さっさと受け入れましょうという提案をしています。関係ないですが”ぶれない”ということは良くもあり悪くもありですし、”一貫性がない”という批判も気をつけないといけないと感じました。
著者のオッペンハイマー先生は本の最後で、多様性こそが重要だと述べています。おすすめです。