がんの治療の基本は(完全に取れると予想されるなら)取り除いてしまうことです。がんを切除するときは、がんの組織を残さないように少し離して(正常組織でがん組織をくるむように)切除します。メスを入れるときに、がんのヘリからどれだけ離したか(距離)を、よくマージンといいます。今回はマージンについて。
ESMO(欧州臨床腫瘍学会)でコペンハーゲンに来ました。7時すぎにやっと明るくなり始めました。ホテルのそばの運河です。寒いです。
壁全体がぼろぼろの布で覆われたビルがありました。写真を撮っていた方に聞いたら「Artだ、たぶん」と言われました。
転移を起こしやすい腫瘍は、大きく離して取り、そうでない腫瘍は小さく離して切ってきました。時代と共に、このマージンはだんだん小さくなってきました。つまり余計に切除する正常部分が少なくなってきています。メラノーマは40年前は5cm離して切除していました(つまりサイズが1㎝のメラノーマでも半径5㎝離すと径11cm取ることになります)。その後3㎝になり、現在は最大で2㎝です(腫瘍の厚みや表面に潰瘍があるかどうかで決まります)。せっかく手術をしたのにがん組織を取り残せば再手術になる、あるいは手術してしばらく経って切除したそばに再発したら困りますので、マージンを小さくすることはなかなか怖いことです。いろいろな研究によって、徐々に、徐々に取る範囲が小さくなってきたわけです。
マージンはがんの種類(性格)によって切除する範囲が異なります。
皮膚がんでは、
基底細胞がん:顔によくできる。基本的に転移しない。サイズは小さく多くは境界がはっきりしているので、数㎜程度離して切除します。取り切れてさえいればOKの腫瘍です。
有棘細胞がん:10%程度の方は転移することがあります。数㎜程度離して取ります。
メラノーマ:3mm-2cm メラノーマは完全に切除しても(できた場所の処理が完璧でも)、リンパ節や内臓に飛んでしまう(手術時にわからなくても、すでに転移している)ことがあります。そのため、最初にできた場所(原発巣:げんぱつそう)を過剰に大きくとる必要はありません。腫瘍の厚さという垂直方向の要素がマージンという水平方向の切除範囲に影響を与える根拠は、たぶん深く行っていれば、横方向にも目に見えない範囲で広がっているかもしれないという考えだと思います。ただ、まだ大きめに取りすぎている可能性があるかもしれません。