行動経済学(20年たてば、したことよりもしなかったことを嘆くようになる)

週末に大学のクラブの新年会がありました。昨年は周年事業も重なったため、メール上で昔の思い出話が飛び交いました。そんな懐かしさがピークに達していた中での、本当に久しぶりの集まりだったので、格別に楽しいひと時となりました。
出かける前に電車の中で読む本を探しに本屋へ行きました。時間がないので目に付いた本(表紙の絵が良かった)をとっさに購入して乗車しました。これが結構面白かった。往復の電車で珍しく惰眠に陥ることなく読みきれました。後で調べたらアマゾンでも上位にランクされていました。
経済は感情で動く」マッテオ・モッテルリーニ、泉典子訳(紀伊國屋書店)
keizai


私たちは日常生活の中で絶えずいろいろな選択(購買、サービス、仕事・・・)をしていますが、本来は「最も自分に得になる選択」をしているはずです(少なくても選択時には)。でも実際は?です。合理的に行動できません。本書ではヒトが選択に際して最も敏感になるお金(経済)に関連した感情と理性のせめぎあいについて、心理学、大脳生理学(最新の画像装置を使用した)の実験結果や罠に関する理論が紹介されています。経済だけではなく、医療に関しても、いくつか例として挙げられています。仕事上の選択、病気の診断・治療にかかわる選択、患者への説明と同意にも関連してくる罠がたくさんあります。その罠にどの程度対抗できるのか?認知思考テストで全問正解できたのは、一般人で20%(例外はマサッチュ-セッツ工科大の学生の48%)だったそうです。たいていの人は罠にかかってしまうようです。(先輩のSさん、やはりMITはさすがですね)
本書で紹介されているいくつかの理論を無理やり自分の診療と結び付けてみました。
選考の逆転:目先の利益に目がくらみ、将来の大きな利益に目がいかない:後でかゆくなるのはわかっていても、一生懸命掻いてしまう・・・少し違うかな?
アンカリング効果:最初に印象に残った数字や物事が、その後の判断に影響を及ぼすこと。1万円の値札に赤線が引かれ7000円と書いてあると安いと思うこと。会議で最初の発言者の内容を自分も同じことを考えていたと錯覚すること・・・皮膚科の診断や治療のカンファレンス会議の時に罠にはまらないように気をつけます。
後悔回避:将来の後悔を避けたいと思う気持ちが、意思決定に影響を与えてしまう。後悔回避のため判断を留保、棚上げ、誰かに責任を押し付ける、会議で討議してもらう、専門家に聞く、だそうです。でも、専門家の意見が正しいとは限らないのだそうです。経済学では。・・・・うーん、あるぞ。
ヒューリスティックス:厳密な論理で一歩一歩答えに近づこうとせずに、直感で答えを出そうとすること・・・病気を診断するときにいつも注意している事項です。ヒューリスティックスという理論名があることを知りませんでした。頭はなるべく手を抜こうとするわけですね(もちろん直感も有効な場面もありますが)。医療では誤診を防ぐために、一番派手な症状には最初に目を向けず、一定の順序で所見をとっていくことを教育されます(そして、いつも忘れないように自分にしょっちゅう言い聞かせます)。皮膚の病理所見は表面の表皮,真皮、皮下脂肪と順番に所見を取る・・・など。
代表性:ヒューリスティックスの要因のひとつ。典型的なものを判断の基準として転用すること・・・固定観念・・これも病気の診断や治療のときに気をつけないといけない罠ですね。
フレーミング効果:質問の提示のしかたによって選択が変わること。ある治療法の効果を95%の生存率と提示した場合と5%の死亡率と提示した場合で選択が変わる。良い事象を前面に出したほうが受け入れやすい・・・これは結構ショッキングな内容でした。説明時に気をつけます。
ピーク・エンドの法則:あらゆる経験の快苦の記憶は、ピーク時と終了時の差で決まり、その時間の長さには関係ない。歯科治療をもとにした実験が紹介されていました。A) 同じ程度の痛みで短時間で終了した場合、と、B) Aと同じ程度の痛みが続くが、治療の最後の時間帯では痛みの程度がピーク時よりも軽くなった場合(治療時間はBのほうがAより長い)です。結果はBのほうが苦痛の記憶が少なかったとのことです。驚くべきことは、治療前にAとBのどちらを選ぶか患者に説明したときには時間の短いAを選びやすいとのことで、患者への説明(インフォームド&コンセント)がきちんと機能しているか著者は疑問を呈しています。喜びの経験も最後が大事とのことです。会議の最後にはきちんとねぎらいの言葉をかける、恋人と別れるときも同じだと、著者は述べています。「終わりよければすべて良し」・・・の法則です・・・局所麻酔の手術のときに最後に痛いことをしてはいけないんですね。気をつけます。
歯科医のW君へ:こんなことは歯科医の間ではよく知られていることなんでしょうか?教えてください。
後悔回避・・・ヒトは短期的には失敗したことに強い後悔の念を覚えるが、長期的にはやらなかったことを悔やんで心を痛めるそうです。マーク・トゥエインの格言が紹介されていました。
「20年たてば、したことよりもしなかったことを嘆くようになる」
新年会では、記憶のかなたから次々と昔の悪行や失敗があぶりだされてきました。でも、あの時、部室の扉をたたいてよかった。今回は、かなり個人的な内容になってしまいました。
rushe

“行動経済学(20年たてば、したことよりもしなかったことを嘆くようになる)” への 2 件のフィードバック

  1. SECRET: 0
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    うはら皮膚科様。ども!
    面白そうな本ですね。探してみます。
    「20年たったら、したことよりもしなかったことを嘆くようになる」蓋し名言ですね。
    21世紀最初の元旦に、しなかったことを嘆かない、なんでもやってみようと、A川温泉スキー場の餅つき(こんなことから)に参加しました。
    爾来、なんでもやってみよう(できるだけ・・)の精神です。まあ、やって失敗して後悔ということもありますが。
    ピーク・エンドの法則、面白いですね。

  2. SECRET: 0
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    AZM様、いつもコメントありがとうございます。AZM様ののブログにあるチラノザウルスとフーコーの振り子は私も結構好きで、上京時に時々寄ります。恐竜のレイアウトが昔と違って臨場感がありますね。さて、偉そうなことを書いてますが、個人的にはやらなかった後悔が少なからずあります。次の10年後は結構な年齢になります。今年の目標は、その日に会った人すべてに対して、これで最後の出会いになるかもしれないと意識して付き合う・・としました。

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