アッカーマン先生と皮膚病理(ひふびょうり)

皮膚科医が普通、病理(びょうり)と呼んでいるのは、皮膚病の診断のために小さく切り取った皮膚や粘膜の一部(生検:せいけん・・・といいます)の組織をホルマリンで固定し(腐らないように)、薄くスライスし、特殊な液で染めて(標本:ひょうほん・・といいます)、顕微鏡でみる検査です。
「ちょっと診断がむずかしいので生検(せいけん)が必要ですね」とか、「皮膚の一部をわずかに切り取って、病理検査(びょうりけんさ)に出します」などと説明を受けたことのある方もいるかもしれません。
皮膚病理の世界的な権威が亡くなりました。
アッカーマン先生といいます
Bernard Ackerman, 72, Dies; Expert at Skin Diagnosis (The New York Timesの記事から
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皮膚生検(ひふせいけん)は皮膚の一部を取って調べる検査です。もちろん麻酔をしてから行います。皮膚の一部を切って組織を取るところまでは皮膚科で、その後の処理は病理部という検査部門で行います。施設によって違いますが、自分の施設で処理ができるところでは、早ければ休日を除いて中2日(検査から4日目)で標本が届きます。
通常は、標本を観察し、診断をするのは専門の病理の先生ですが、皮膚病理はちょっと特殊な世界のため、病理標本は皮膚科医も見て、最終診断は皮膚科医が行うことが多いと思います。もちろん、難しい場合は、その道の専門家(悪性リンパ腫や肉腫を専門にする病理の先生など)に送って意見を聞くこともあります。
なぜ特殊かといいますと、目で観察した皮膚の症状(マクロ)と顕微鏡で観察した所見(ミクロ)の両方を合わせて診断にもっていくことが必要だからです。したがって病理標本のみで診断をするのは結構きついのです。病理の先生は結構きついと思います。
アメリカには皮膚病理専門医というのがいて、皮膚の病理だけみています。皮膚科の専門医を取った後にさらにトレーニングを受けて取得する資格です。アッカーマン先生はそんな皮膚病理学者の権威でした。
病理診断(CT,MRI、レントゲンなど、目で見て診断するものはみな同じですが・・・形態学:けいたいがく、と言います)はキノコや植物の鑑別と近いものがあります。アッカーマン先生は全体のシルエットが診断に重要であることを強調し、広めた方です。光学顕微鏡(自分の目でのぞいてみる普通の顕微鏡)も400倍ぐらいまでは倍率を上げることができます。最初はどうしても、一番拡大を上げて細胞の状態などを観察したくなります。先生は、まず全体像を見て、徐々に倍率を上げて細かいところを観察していくことの重要性を説きました。1978年(先生はまだ42歳だったことになります)に初版された先生の教科書では、まず、鳥の種類を見分けるためには全体の形・・・シルエットが大切だと記載されていました。
医師になったとき、当時の助教授が皮膚病理の指導を行う際に使用したのが、この1978年版の教科書でした。表紙は黄金、厚さは7-8cmあったでしょうか(中の字も大きかったですが)。他の大学の皮膚科研修医に聞いたら、「誰?その人?」といわれました。ポピュラーじゃなかったんです。でも、中身は斬新で、ある程度機械的に所見をとり、アルゴリズムで診断に近づいていける点が、共通一次試験世代の私にはぴったりでした。(本当はもっと奥が深かったのですが・・・)
1999年に、アッカーマン先生が講演と病理診断のセッションのために当地を訪れました。それ以前にも学会で講演を聴いたことはありました。見上げるような大男で、声も太く大きく、他の権威者に対して遠慮のない意見をガンガン述べる。理由を列挙し、自説を展開し、相手の間違っているところを徹底的に突いていく光景は、「その機関銃をこっちに向けないで!!」と思うほどに恐ろしかったです。
でも、若い医師には優しかった。私も第2版の教科書にサインをしてもらおうと講演後に先生のところに行きました。先生は風邪で体調が悪いにもかかわらず、サインだけではなく、裏表紙いっぱいに文章を書いてくれました。「お前の病理学への努力に光が当たるように。そして、いつか、ニューヨークの研究所でマルチヘッドの顕微鏡を一緒に見よう」など、など。翌日、成田空港までお供をしたのですが、2ヵ月後に船便で先生の新しい著書が、また自筆文入りで送られてきました。私の宝物のひとつです。
さて、ニューヨークタイムスの記事に、Ackerman先生が自分自身のことを皮膚病理に例えて述べたときの言葉が紹介されていました。
彼は、低倍率(シルエット)では自説を曲げない頑固者に見えるが、倍率を上げると聞き分けがよくて協調性があり、さらに倍率を上げれば思いやりがあって共感できる者である。・・・シルエットが最も大切だといった先生の説にちょっと反しているような表現ですね。これも先生なりのユーモアでしょうか。
以前の記事で、「ハゲは進化だ。人は進化の過程で毛を失ってきたのだから。」と述べた先生とは、アッカーマン先生のことです。

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