手荒れとお仕事

皮膚科に手荒れの患者さんがたくさん来ます。手全体がカサカサして、指先がひび割れているけれど、赤みやかゆみがなければ、お湯と洗剤による皮膚の保湿成分の流出によるものと考えます。これは頻回に手を洗ったり、素手で洗剤をいじっていれば誰にでも起きることです。でも手が赤く、かゆければかぶれが起きています。家事で起きるこ場合はなんとか予防も可能ですが、現在従事している仕事が原因の場合はなかなかやっかいです。仕事は生きていくための生業だからです。今回は職業による手荒れについてです。
参考:Monthly Book デルマ、2018年12月号の特集(達人に学ぶ“しごと”の皮膚病診療所“(産業医大 中村元信先生編集)より
よし、冬がきたぞ、・・・・と。まだ余裕があります。

お仕事と手荒れ
手の平や足の裏は他の皮膚と違う点がたくさんあります。たとえば、毛が生えていませんし、毛がないので脂を分泌する腺もありません。また、他の皮膚より表面が頑丈にできています(角層が厚い)。汗も暑いからかくのではなく、緊張してかきます(危険が迫ったときに、サルが樹から落ちないためだと聞いたことがあります。ヒトとその祖先が樹から地上におりてだいぶ時が経ちましたが・・・・)。
手の平には脂が分泌しないので、手を洗うと(汚れてもいないのに手を洗う習慣はかなり最近の風習で、サルは汚れても手は洗いませんね。たぶん)、体の他の部位を触ってもらってきた脂もとれてしまいます。手指はふやけると大切な保湿成分が抜けて、乾燥すると割れ目が入るようになります。そんな状態でいろいろなものを触らなければいけないのでかぶれやすくなります。
今回はお仕事による手のかぶれ、です。Monthly Book デルマという雑誌の2018年12月号の特集(達人に学ぶ“しごと”の皮膚病診療所“(産業医大 中村元信先生編集)より
医療従事者の手荒れ・・・手術用手袋(山田砂矢子先生、アンセルヘルスケア(株))
手袋によるかぶれは手術に関わるスタッフに起きやすいトラブルです。原因は悪い順に、天然ゴム製で滑りをよくするために塗布されているパウダー、次に天然ゴム自体とゴム製品の形を維持するために入っている加硫促進剤です。パウダーは2018年12月末(今ですね)までに流通を規制するよう厚労省から通達が出ているそうです(知らなかった)。ゴム自体のアレルギーはラテックスアレルギーといいます。手荒れだけの問題ではなく、自分が手術を受けるときに術者がしていた手袋でショックになったり、ラテックスと同じ抗原をもつ果物を食べてアレルギーが起きるようになってしまったりします。
合成ゴム製ならかぶれにくいので、流通量が徐々に増えていて、2017年日本では27%が合成ゴム製とのことです。因にアメリカでは65%が合成ゴム製だそうです。
合成ゴム製なら完全に安心か、というとそうでもないようです。ゴム(元の形に戻ろうとする性格が特徴です)をある形に製品化したときに、形を維持するために加硫促進剤が必要です。この加硫促進剤がまたかぶれの原因になっています。この加硫促進剤は合成ゴム製にも入っているので、山田砂矢子先生先生の研究では、手荒れの看護師さんの1/3は天然ゴムの手袋でかぶれていたが、1/3は合成ゴムの手袋でかぶれたいたそうです。(うーん。「合成ゴムの手袋に変えてみたら」・・・と説明していたなぁ。反省)
後は眼に着いたポイントのみピックアップ。
美容師の手荒れ
65%強が染毛剤(パラフェニレンジアミン)、次にパーマ液(システアミン塩酸塩)だったそうです(Ito Aら、Contact Dermatitis, 2017)。
野菜農家
面白かったのはキュウリ。葉っぱでは皮膚炎を起こすが、すりつぶすと起こさない方がいる・・・つまり葉に生えている毛による刺激だったということだそうです(太田多美、皮膚病診療2017)。サトイモ、コンニャクイモ、サトイモも皮膚に付くとかゆくなりますが(私は子供の頃の経験から成人するまで食べられませんでした)、これは含まれている針状の結晶(シュウ酸カルシウム)による刺激で、アレルギーではありません。
パン職人の手荒れ
アレルギーの原因となることの多い小麦を扱うので、まず小麦やライ麦,などを疑うのですが、実は使用していた手袋の加硫促進剤だったというケースを紹介しています(角 総一郎)。うーん。アレルギーの原因検索はやはり推理小説を読むようだ。
*この特集号では、他にも職業性の皮膚炎についてよく解説されていて、楽しく読め、そして勉強になりました。

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