母斑(ぼはん) 母に責任はない

母斑(ぼはん)は一部の皮膚の生まれつきの異常・・・あざ、のようなもの・・・の意味です(医学的な定義にはいろいろあって、もっと複雑ですが、簡単に言えば)。

病名としては、

色素性母斑(黒:ほくろ)、扁平母斑(茶色:へんぺいぼはん:コーヒー牛乳色のシミ)、脂腺母斑(黄色:しせんぼはん:赤ちゃんの頭部にできる生まれつきの部分的な脱毛としてみられる)、太田母斑(青:おおたぼはん)・・・・などがあります

赤ちゃんに起きた何らかの異常を母親のせいにする・・そんな時代がありました。“母斑”という言葉は明治に西欧の医学を輸入して、和訳して長い間使われてきた言葉であり、皮膚科医には使い慣れた用語です。とくに“母親からの遺伝”という意味で使ってる皮膚科医はまずいないと思います(個人の印象です)。だから、病名に“母”という文字が入っているのはよくないのではないか・・・という意見は昔からありました。

これらのことを歴史的に詳細に検証した素晴らしい論文があります。

村田洋三、「母斑」という用語について、皮膚の科学2018年6月号

春と夏がいっぺんにやってきた

鹿だったようです。円山の緑が美しいです。

 

村田によれば、「母斑」という用語が初めて登場するのは1876年で、オランダ人のエルメンレス著、原田俊三訳、高橋正純出版の「外科各論巻之三」の中に現代のほくろを指した記述のようです。ドイツ語圏の医学を導入していたこの時期、Muttermal, Moedervlecといった母に由来する言葉をそのまま訳したようです。英語ではMother’s patch(母の斑)です。妊娠中の母の生活様式が子の異常につながるという考えなどが含まれていたようです。

村田先生によれば、“母斑”の語源をさかのぼると、古代ローマ人のfirst nameを意味するGnaeus (birthmark:生まれつきの印・・現代語訳ではアザ)や古典ラテン語でnaevusであり、うまれつきの・・・という意味はあっても母という意味はないのです。村田先生は、過去の論文に“母斑”を意味する”mather’s mark”(母の印)が使われている時期を調べていて、これによればピークは1880年代にあり、その後は急激に使われなくなり、1945年以後はドイツを含めてほとんど使われていません。一方、1900年ごろから使用されることが増え、現在主流になっているのは“Birth mark”(生まれつきの印)です。

 

つまり、日本がドイツから医学を導入した(限られた)時期に流行っていた“母斑”という用語が、日本だけ?、そのまま生き残ってしまったようです。

 

母斑にかわる良い言葉ないでしょうか。一番あてはまるのは本来のアザ「痣 音読みシ」になります。

村田先生によると、痣の初出は今昔物語(平安末期)だそうです。現在まで570年ぐらいの歴史がある言葉になります。“母斑”の歴史は142年であり、村田先生はこのまま母斑が使われ続けるより、birthmarkのよい日本語訳を考え出したいと述べておられます。

 

たしかに、そのまま痣をあてはめると、色素細胞母斑・・・色素細胞痣(しきそさいぼうし)、扁平母斑・・・扁平痣(へんぺいし)となります。“シ”という響きが“死”をイメージさせる点がなんとなく違和感があるかもしれません(個人的な印象です)。Birthmarkのいい訳はないでしょうかね?

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