前の記事からの続きです。円形脱毛症は自分の免疫が自分の毛を攻撃して起きています。
これに局所免疫療法が有効な場合があります。あるかぶれやすい物質を塗って頭の皮膚に炎症を起こすのです。すると毛が生えてくる方がいるのです。なぜかぶれさせると毛が生えてくるのかよくわかりません。ただ、かぶれによって毛が再生した方はすぐにかぶれを起こす薬の外用を止めると毛が抜け始めることがけっこうあるので、やはり効いていると思われます。毛を攻撃する免疫も、かぶれも免疫です。毒をもって毒を制するという感じでしょうか。
水生栽培の大根につぼみが出てきた
かぶれを起こす薬はスクワレン酸ジブチルエステル(SADBE)やジフェニルシクロプロペノン(DPCP)という化学物質です。ともにかぶれやすい物質です。これらの物質は何十年も前から免疫状態の評価に使われてきました。今はリンパ球のサブセット(リンパ球の中の役目ごと比率や数)などで免疫に関連する状態を予測することができます。昔はそのような検査はできなかったので、DPCPでかぶれなければ患者さんの免疫のある部分が弱くなっていると予測していたわけです。DPCPは発がん性があるので、現在はSADBEが主に用いられています。
これらの物質はかぶれやすいが、一般社会では製品として使い道がないという特徴があります。普通であれば絶対に世の中に出てこない、(ヒトにとっては)全く価値のない物質なわけです。逆にこの性質があるので、治療に用いることができるわけです。ギンナンもかぶれやすいので治療に使うことは可能ですが、イチョウ並木を歩くとかぶれてしまうという問題が惹起してしまっては困ります。
まわりとは違った性質をもち、今は一見役立たないと思えても、何に役立つかわかりませんね。多様性はとても大切であるという1つの例かもしれません。ちょっと説教臭くなりました。
円形脱毛症で毛が再生してきた毛は白髪になることが多いです。難治の円形脱毛症にはカツラを、白髪が生えてきた方には毛染めを勧めています。あるとき白髪を染めたらかぶれてしまったという患者さんがいました。SADBEを塗らなくても定期的に毛染めを(ただし軽めに)行うと脱毛が再発しないということでしたので通院を終了しました。ラッキーな方もいるもんだと思いました。