日本皮膚悪性腫瘍学会2016 成人T細胞性白血病はもう風土病ではない?

日本皮膚悪性腫瘍学会で鹿児島に来ています。すばらしい講演が組まれており、とても勉強になります。個人的にほとんど診察することのない病気ですが、今後出会う可能性があるかもしれない成人T細胞性白血病に関する内丸薫先生(東大医科研)の講演で聞いた内容をまとめておきます(もし内容に間違いがあれば私の理解の問題です)

成人T細胞性白血病はHTLV-1というウイルスをもっている方のごく一部(5%)に発症します。 このウイルスを持つ方は九州や沖縄、中国四国地方の海沿い集中している風土病として発見されました。その後、このウイルスを持つ方は日本だけではなく、アフリカ、東南アジア、南米などにもいることがわかり、アフリカを出たホモサピエンスの古いグループが持ってきたのではないかと推測されています。成人T細胞性白血病は ウイルス学と人類学を結びつけた疾患です。
さて、今回聴講して心に留めなくてはいけないと思ったポイントは次の2つです。

1つはHTLV-1というウイルスを持つ人は大阪や東京を含む首都圏に散らばって来ているということです(進学、結婚、就職などによる社会的な移動によります)。つまり、西に多い風土病だから、東日本にはあまり関係ない、と安心できなくなってきているといことです。

もう一つはウイルスを持つ母親へのサポートが十分ではないこということです。
このウイルスは母乳で赤ちゃんにうつります(ほかには性交渉でもうつる可能性があります)。母乳ではなく人工乳に代えることで感染は予防できます(ただ母乳を与えなくても3%は感染してしまうようです)。母乳も1回凍らすと感染しなくなります。また(これは不勉強で知らなかったのですが)、母乳も3か月以内なら赤ちゃんへの感染はほとんど起こらないと言われています(そのため短期授乳を産科の先生に勧めらることもあるようです)。問題は、HTLV-1を持つ妊婦さんへの教育を含めたサポートが充分ではないと内丸薫先生(東大医科研)は述べておられました。たとえば、産科の先生には3ヶ月の短期授乳を勧められても、断乳がうまくできずに授乳期間が長くなりお子さんにウイルスが感染してしまった、という事例がるそうです。問題は産後しばらくすれば産科への通院はしなくなりますので、お母さんは相談する方を失ってしまうようです。一旦お乳を凍らせば感染の危険性は減りますが、面倒ですので(そうですよね。忙しい日々の中でこの作業を毎日やるのはけっこうな負担になりますね)、5%ぐらいの普及率ではないかと内丸先生は述べておられました。
予防医学が最も効果的に発揮する疾患であるとあらためて思いました。

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