週に1回、自分が興味を持った論文をみんなに紹介する会があります。抄読会(しょうどくかい)とかJournal Clubなどと呼びます。半年に1回程度自分に順番が回ってきます。今日が自分の当番でした。自分にとって異分野の論文を読む場合は、用語の解説などを含め、準備に時間が必要です。時間もなかったので最近読んだ中で面白かった論文”Changing clothes easily”を選びました。大阪大学の近藤滋先生達のテーマである、動物の模様はどのような仕組みでできているのか?という論文です。
日常の診療では、色素のパターンによってほくろやメラノーマ区別するのですが、良性と悪性を見分ける普遍的なポイントは規則性です。例えば良性のほくろは斑紋ならサイズや分布、網目なら網目の紐の幅や網目の目のサイズに規則性があります。つまり良性は一様です。でも斑紋や網目のパターンはどのようなしくみでできるのでしょうか?皮膚の表面が削れても皮膚のしわは前と同じように復活します。これは皮膚の下に上が欠損しても復活できるように情報が備わっているのでしょうか?生まれつき細胞に位置情報がインプットされているのでしょうか?でもそんなことをしていたら情報量がとんでもない量になります。ずっと上から指図しなければならないシステムは脆弱です。
近藤先生が明らかにしてきた研究結果では、模様は現場の細胞同士のいがみ合い(近くでは互いを牽制する抑制系)と遠く離れればどちらか一方がもう一方の細胞集団に助けてもらう(促進系)という微妙な関係(対話?)でできるのだそうです。
卒業のシーズンです。末っ子がもらってきたお花
厳しい寒さを生き延びた野沢菜 急に育ち始めました
餅 春に合いません
カテゴリー: 雑記帳
見えているものと見ているもの
以前の記事(ワインと皮疹と舟を編む)で、学生の実習の初日に皮疹をなるべく正確に言葉で表現する遊び?をやっていることを紹介しました。でも現在の電子カルテには皮膚の写真もレントゲン写真もCTもエコーも病理写真も高解像度で載っています。皮膚科の診断は見慣れた疾患であれば見た瞬間に診断がつきます。ある一定の順序で所見をとることは誤診を避けるために重要ですし、一番所見を取れる人が言語化しておくことがチーム医療では大切ではないかなどといった理由を挙げて、正当化してきました。
でも、本当にそうなのか?時代遅れの習わしにすぎないのではないか?そんな面倒臭いことをしなくても診断はつくのではないか?という感じ(不安)はずっとあります。
新聞の書評に出ていた本「言葉が違えば世界が違ってみえるわけ」を読んでみたら、言語表現が物事の見え方に影響を与えるらしいと書かれていました。
人参のヘタを水に浸けておいたらかわいい葉が出てきた
ホモサピエンスの旅
アフリカを出た現生人類がどのように世界に拡散していったのか感染症の側から観察してみようと、このブログでいくつかの記事を書いてきました。ある病原体を世界中から採取し、その遺伝子の変異から先祖はどの地域の人のものか?という報告を紹介してきました。
現生人類がアフリカを出てから少なくても数万年以上たっているわけですから、対象になる感染症はその年月に耐えらるような特徴が必要です。インフルエンザのようにすぐに拡散し、どんどん変異していくような菌では調べられません。かなり密接な関係にないとうつらない菌がベストなわけです。
例えば、HTLV1(成人T細胞性白血病リンパ腫ウイルス:母乳)、ピロリ菌(口移し?)、ハンセン病(乳児期の添い寝から呼吸器へ)、などです。
しかし、最近ふと、おおもとの考古学や遺伝学の見解はどうなのかまったく知らないことに気づきました。そこで本屋さんでたまたま手に取った以下の本を読んでみました。原著は2003年と少し古く、著者のオッペンハイマー先生はかなり個性的な意見を述べており、そのまま一般化できないのですが、読みながらどきどきしてきました。面白かったです。結構有名な本のようですね。
2013年元旦
大晦日
大晦日です。
今日は年賀状に多くの時間を割きました。大晦日と関係する皮膚疾患を調べる余裕はもうないので、今年を簡単に振り返ります。
今年は、
鮭とパエリアとアレルギーという、いつもどおりよくわからない題で始まりました。
シラミとノーベル賞
クリスマスイブですが聖夜に合わないお題ですね。
シャルル・ジュール・アンリ・ニコル
1928年にノーベル賞医学生理学賞を取った先生です。
発疹チフスという病気があります。日本では長らく発症がありません。昔は軍隊や牢獄などで流行したそうです。有名なところでは1812年のナポレオンによるロシア出兵など。発疹チフスやコレラは19世紀の急速な都市化と不良な衛生環境によって猛威をふるい、民衆の蜂起の原因にもなったそうですから、感染症は歴史に大きな影響を与えてきたんですね。
さて、シャルル・ジュール・アンリ・ニコルは発疹チフスという病気が入院すると感染しにくいところから、衣類に関係すること、そして衣類に着くシラミが原因であることを突き止めました。原因はシラミ(コロモシラミ)が媒介するリケッチアという菌による病気でした。紛らわしいのですが、「発疹」が付いていない「チフス」はサルモネラによる腸の感染症です。日本ではこっちのほうが有名ですが、「発疹チフス」とは全く別の病気ですね。
ナポレオン失脚後の20年間ほどを舞台にした大ヒット作があります。ビクトル・ユーゴのレ・ミゼラブルです。今日、楽しみにしていた映画を観てきました。
泣く子、泣かない子(長男と次男)
よくある病気のネタがないので、こんなテーマになりました。
外来に入って来た瞬間に泣き始めるお子さんがいます。1歳までは無邪気にニコニコしていたのに、どこかで痛い思いをしたのでしょう。白衣を着た人≒痛いことをする、というアラームが作動するのは当然です。さらに、皮膚科でも痛い検査や治療があります。痛い治療の代表は、やはり、水イボ取りとイボの凍結治療でしょうか。でも、ときどき泣かない(あるいは涙をためて、ぐっと我慢して抵抗しない)お子さんがいます。
個人的な経験上、泣かないお子さんのなかに長男はほとんどいません。
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タコ(胼胝、べんち)、イボ、ウオノメ(鶏眼、けいがん)はどこがちがうの?
ピロリ菌はどこから来た?
感染症と人類の大移動?シリーズ。
慢性の蕁麻疹(じんましん:1ヶ月以上続くジンマシン)は、なかなか治りません。抗ヒスタミン剤を飲んでいればおさまっていますが、やめるとかゆみや皮疹が出てきてしまうということを繰り返します。原因もほとんどつかまりません。ピロリ菌が原因になっている方が時々いるようです。
と、かなり無理矢理に結びつけて、今回はピロリ菌の伝播経路と人類の大移動について。
遺伝子の分析から、ピロリ菌もやはり、数万年前に東アフリカを出て、世界に広がったようです。
論文はちょっと古くて、こっちです。
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縄文人が持ってきたもの
弥生人が持ってきたもの
久しぶりに”還るべき場所”自宅で週末。K2を舞台にした山岳小説です。おもしろいです。
この状況では、焦げないよう気をつかわないといけないし、焼けたものからさっさと食べないといけないし、ワインもときどきはさまないといけないので、本はほとんど読めませんね。
紅玉のパイ
菊のおひたしとクリタケのご飯 ともにいただきもの
日本癌治療学会 ちょっと元気が出た
弥生人が持ってきたもの(2)
感染症の伝播から予測した人類の大移動シリーズ(?)の続きです。
弥生人は稲作の方法を日本にもたらしました。でも皮肉なことにお酒を飲めない体質(中国あたりにたどり着いた頃に遺伝子が変異して飲めない体質になったようです。極東アジアにしかない変異です)になっていました。
他には、ベーチェット病になりやすい素因なども弥生人が持つ特徴のようです。縄文人が持っていたのは小柳原田病というメラノサイトに反応する自己免疫疾患やHTLV-1というウイルスです。
今回は、弥生人が持って来たであろうと言われている結核について。
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