がんのお薬が世の中に出てくるまで

’がん’を治すために、たくさんのお薬が開発されています。試験管の中でのスクリーニングで有望なら、動物実験を経て、極々わずかなお薬のみがヒトに投与されて有効性を確認します。ヒトへの投与(治験)し、さらに、ごくこぐごく、奇跡的な確率で新薬は世の中に出てくるわけです。以前薬品メーカーの開発にいる方から、大学院を出て薬品メーカーの研究部門に入り、定年まで新薬開発に従事しても、定年までに自分がかかわった化合物が世の中に薬として出ることは極めて稀で、(その方の感覚としては)50人中49人は承認薬に関わることなく定年を迎える・・・といったことを聞いてショックを受けたことがあります。

私のような臨床医はヒトへの投与が可能となった時点(治験)から関わることになります。今回は新しいお薬の有効性(どれだけ患者さんのためになるか?)を評価するポイントについて説明してみます。

今年のシカゴは滞在中ずっと良い天気で、風もおだやかでした。 こんなことは初めてです。これまでは天気がめまぐるしく変わり、最高気温が15度ぐらいまで下がった日もありました。晴れた日の夜のビル群の美しさは格別です。

日本を午前に出ると、時間をさかのぼって夜に入り、朝日を迎えてシカゴに着きます。この朝日を見るとなんとなく得をしたような(帰国時に損をするのですが)、あるいは近距離のタイムマシンに乗ったような不思議な感じがいつもするのです。

 

まずは副作用です。副作用が強くてとても使えそうにないと判断されれば、その時点でそれ以上治験は行われなくなります。長い開発期間ののち、動物実験をクリアーし、ヒトへの初めての投与試験ではこの副作用、毒性をみます。ここで姿を消す薬剤は少なくないのです。

副作用が許される範囲であると評価されれば、次は効果をみます(毒性と効果を同時にみる試験もあります)

最も早くお薬の効果を評価できるポイントは、お薬を投与してがんがどれだけ小さくなったか(奏効率:そうこうりつ)です。しかし、血液関連や精巣のがんを除くと、がんが完全に消えることはそれほど多くはありません(メラノーマについては、今、最も効く薬で20%)。小さくなって痛みが取れた、などの良い点があればいいですが、CTでがんはいったん小さくなってもすぐに大きくなって(薬に効きが悪くなる:耐性:たいせい)しまう場合があります。

次にお薬の効果を評価するポイントは、小さくなったがんがどれだけの期間、小さいままでいてくれるか、です。お薬Aは6か月、Bは12か月なら、Bの方が長く効くと言えます(患者さんごとに期間はばらばらですので、中央値を使います)。

そして、一番時間がかかるけれど、もっともよい指標とされてきたのが生存期間です。ちょっと乱暴な説明ですが、お薬によって、どれだけ長く生きられるか、ということです。1年生存率、2年、3年、4年、5年とデータが出てきます。5年生存率が最も重要視されますが、当然のように5年を大きく超える観察期間が必要です。

安全性(副作用、毒性)と効果を合わせて、お薬の評価が定まります。既存の薬より良い(あるいは効果は変わらないが価格競争の相手になるなど)、と評価されれば世に出てくるわけです。

*だいぶ簡略しましたので不正確な部分も多々あります(為念)。

「がんのお薬が世の中に出てくるまで」への1件のフィードバック

  1. 時間と空が交錯したようなステキな一瞬ですね。この夜明けのようにメラノーマ治療が明るくなると良いですね

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