生命は海に生まれ、陸に上がった だから舌癌は白くふやける

口の中のただれ(潰瘍:かいよう)のために皮膚科を受診する方は少なくありません。舌癌は表面が白くふやけていたり(白斑症はくはんしょう)、赤くただれたように見えます。白くふやけたり、赤くただれても癌とは限りません。癌以外にたくさんの病気があります。でも30年以上皮膚科をやっていて、舌癌を疑って歯科口腔外科に紹介した患者さんは2‐3例しかありません。今回はなぜ口の中のがんは白くふやけるのか?です。

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もう1‐2回いたぶられるだろうけど、間違いなく、春の予感がしてきました。東京から出張して来た方にはわかんないだろうなぁ。気温が+になったんだ。

口の中の粘膜の表面は扁平上皮(へんぺいじょうひ)という細胞が石垣のような仕組みを作っています。扁平上皮は皮膚や粘膜の表面を守っている細胞です。鼻や喉、食道、肛門、膣なども扁平上皮で覆われています。でも扁平上皮の細胞の性質は環境によって異なります。粘膜は水に強く乾燥に弱く、皮膚は乾燥に強く水に弱いのです。生物が海に生まれ、海や川で過ごしていた時の皮膚は水に強い皮膚です(しかし、陸上では乾燥してバリアの役割を果たせません)。陸に上がるようになり、両生類は水気のあるところと乾燥しやすい陸上の両方でうまく生きれるように扁平上皮の性質を変えました。さらに、爬虫類、鳥類、哺乳類とだんだん水に入らなくても体内の水を失わない強固な皮膚を持つようになりました。でも、この強い皮膚はいったん水に入るとふやけてしまいます。環境にオールマイティなしくみというのはなかなか難しいですね。(不正確で不確実な部分は多々ありますが)人の皮膚は陸上で生きるための乾燥に強い皮膚です。しかし水に弱いので、水に浸かっていると白くふやけてバリアはぼろぼろになります(長湯をしたときのシワシワの指)。口の中は水に強い皮膚です。濡れた環境にあっても白くふやけません。では舌や頬粘膜や歯肉に白くふやけたただれ(白板症といいます)が長く続いいているときは何が起きているのか?粘膜の扁平上皮が、本来、自分が存在している環境を無視して、違う環境の扁平上皮に変化してしまった、ということです。

この変化には2種類あります。1つは炎症(えんしょう)・・・アレルギーや感染(イボなど)による変化(感染によるしかたがない防御反応・・・時間と共に形や大きさが変化する)、もう一つは腫瘍(細胞自体が自主的な意思?で変化した・・・良性と悪性がある)です。

水の中から陸上へ・・・生き抜くために皮膚の表面の性状を変化させてきました。これはお母さんのおなかの中の赤ちゃんも同じ皮膚の変化をたどって生まれてきます。

せっかく陸上に上がったのに、また海に帰ったクジラはどうか?我々の皮膚のバリア(保湿)に関わる重要な成分であるフィラグリンを作る能力を捨て、角層(垢・・大事なバリアです)を作らない、つまり水の中で生きやすい皮膚に戻っちゃったみたいです。

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